きょうの日本民話
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2009年 2月9日の新作昔話
お経をよむ木仏
東京都の民話
むかしむかし、本郷竹町(ほんごうたけちょう)のあるお寺で、古い木仏をまつっていました。
ある年の事、だれもいない本堂から、にわかにお経をよみあげる声が聞こえてきたのです。
さあ、寺中は大騒ぎで、坊さんたちも小僧さんたちも、みんな本堂に集まってきました。
そこらを見まわしましたが、あやしい者はいません。
ただ一人、木仏さまが静かに座って、お経をよんでいるのです。
「ありがたや、ありがたや」
と、坊さんたちは手をあわせて、念仏をとなえました。
この話は、あっという間に江戸中に広がりました。
「木仏さまが、お経をよまれるとは不思議な事じゃ」
「おまいりすると、ご利益があるかもしれん」
と、いうわけで、あちこちから、おまいりをする人が押し寄せて来ました。
それで寺の前には市が立つし、茶店までがならぶほどのありさまです。
さて、ある晩の事。
一人の男がこの不思議な木仏さまを盗み出そうと、寺に忍び込みました。
ろうそくのあかりでてらして見ると、木仏さまは、だまってすわっています。
「よしよし、これを物好きな金持ちに売れば、一財産が出来るぞ」
あかりを消した男は、そーっと、仏さまをかかえました。
するとにわかに、お経がはじまったのです。
「ギャーッ!」
どうぼうは思わず仏さまをはなして、飛び上がりました。
そして、はれあがった顔をおさえて、泥棒は逃げてしまいました。
この話しが寺社奉行(じしゃぶぎょう)の耳に入り、奉行所ではさっそく役人を出して、詳しく調べさせることにしたのです。
役人が恐る恐る木仏に近づいて、じいっと耳をすますと、たしかにお経をよむ声がします。
「これは、不思議だ」
「ほうってはおけん」
「原因をつきとめねば」
役人たちの言葉を聞いた和尚さんは、びっくりして、
「どうか木仏さまに、手荒な事はなさいませぬように」
と、しきりに頼みます。
しかし役人は、よってたかって木仏を台からひきずりおろすと、
「えいっ!」
と、ばかり、床の上に押し倒しました。
すると、
ブーン!
ブーン!
と、ものすごい勢いで、たくさんのハチが飛び出したのです。
実はこの木仏はハチの巣になっていて、ハチの羽音が木仏の中で響いて、お経をよんでいるように聞こえたのでした。
おしまい
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