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2009年 2月12日の新作昔話

生まれかわった赤ちゃん

生まれかわった赤ちゃん
和歌山県の民話

 むかしむかし、那賀郡田中村(→今の和歌山市)というところに、赤尾長者とよばれる長者がいました。
 長者は、ずっと子どもがいないのを悲しんでいましたが、ようやく玉のような男の赤ちゃんが生まれたので、どうか万年も生きてくれよという願いを込めて、亀千代(かめちよ)という名前をつけて、毎日はかりにかけて、体重が増えるのを楽しみにしていました。
 ところがある日、体重を測ろうとしたとたん、はかりのひもがぷっつりと切れて、亀干代は地面に頭をぶつけて、その夜のうちに息を引きとってしまったのです。
 長者夫婦は一晩中、悲しみましたが、ふと、死んだ子の手のひらに名前を書いておけば、生まれかわったところがわかるという言い伝えを思い出して、さっそく筆をとると、亀干代の左の小さな手のひらに、
《赤尾長三郎の一子、亀干代》
と、書きつけ、
「亀干代や、いつか生まれかわってこいよ」
と、いいきかせて、小さなお棺のふたをとじました。
 ところがそれから何年かたったある日のこと、小さな赤ちゃんをおぶった若い夫婦が、赤尾長者をたすねてきました。
 長者夫婦がおどろいたことに、その赤ちゃんの左の手のひらには、まぎれまぎれもなく長三郎の書きしるした文字が、そのまま現われていたのです。
 若夫婦が言うには、
「お寺の和尚さんのところに連れていきましたら、『この子は赤尾長者の子の生まれかわり。この字はどこの水で洗っても消えんが、以前に生まれた家の井戸の水で洗えば消える』と、いわれました。そんなわけで、お水をいただきにまいりました」
と、いうことです。
 長者夫婦は赤ちゃんを抱きしめると、涙を流しながら頼みました。
「一生のお願いや。この赤ちゃんを、わしらにくれんか。お礼はなんぼでもしますから」
 しかし若夫婦にとっても、かわいい我が子です。
 長者夫婦の涙にもらい泣きしながらも、はっきりと断ると、家の井戸の水をもらいました。
 そしてその子の手を井戸の水で洗うと、文字はみるみる消えたということです。

おしまい

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