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2009年 3月2日の新作昔話
安国寺の桜
京都府の民話
むかしむかし、京都の綾部(あやべ)の安国寺に、植木が大好きな和尚さんが住んでいました。
ある日の事、植木屋がこの寺にやってきて、めずらしい桜の苗木を見せました。
「和尚さん、この桜の苗木は、そんじょそこらの桜とは違います。どうでしょう。なんならおわけしてもよろしいが。・・・ まあ、ちょっとは値がはるのですが」
「ふむ、なるほど、これは見事な苗木じゃ。それで一体、何両なら、わしに売ってくれる?」
和尚さんの言葉を聞いた植木屋は、心の中でニヤリと笑いました。
(しめしめ、この桜の苗木は隣の村から一両で買うてきたものじゃが、うまくすれば何倍にももうかるぞ)
植木屋は、いかにも親切そうな顔で、
「そうですな。和尚さんにはお世話になっているので、十両ならおわけしましょう」
「十両?」
十両といえば、大金です。
桜の苗木は欲しいのですが、和尚さんにはそんな大金はありません。
「なんとか、五両に負けてくれんかのう。五両なら出せるのじゃが」
植木屋は、心の中でしめしめと思いながら、
「そうですか。うーん。それではもうけがありませんが、和尚さんの為です。それでお売りいたしましょう」
と、言って、桜の苗木を渡そうとすると、不思議な事に桜の苗木から急に根が伸び始めて、植木屋の足にぐるぐる巻きついたではありませんか。
「うわーぁ! 苗木のやつが怒った! 和尚さん、この苗木は本当は一両で買うたもんじゃ。だから一両でいい」
植木屋がそう言うと、桜の苗木はさらに根を伸ばして、植木屋の体をギシギシとしめつけました。
「わかったわかった! 金はいらん! だから助けてくれー!」
植木屋がそう言うと、植木屋に巻き付いた桜の苗木の根は、すーっと外れました。
そんなわけで桜の苗木は安国寺に植えられて、美しい桜を咲かせたのです。
そして数百年たった現在、幹は枯れてしまったのですが、根だけはまるで生きているかのように、しっかりと残っているそうです。
おしまい
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