きょうの日本民話
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2009年 3月6日の新作昔話

髪の長い娘とナマズ

釣り舟清次のお札
東京都の民話

 むかしむかし、江戸の海辺にある古長屋に、清次(せいじ)という漁師がすんでいました。
 清次は海に乗り合いの釣り舟を出して、くらしをたてていましたが、お客のないときは自分で魚を釣って売っていました。
 ある日の事、その日はお客がなかったので、清次は朝早くから沖へ舟を出して、キスを百尾ばかり釣りあげました。
 そして、港に帰ってくると、
「ほほう。これは見事なキスじゃな。一尾、おれにくれぬか」
と、えりの立った衣を着た大男が、長いひげをなでながら声をかけてきたので、
「はっ、はい」
 清次が魚を手わたすと、なんと男は大きな口を開けてその魚を生のまま、パクリと一口で食べてしまったのです。
「・・・!」
 びっくりした清次が呆然としていると、男がたずねました。
「お前の名は、なんというんじゃ」
「はっ、はい。せっ、せっ、清次と申します」
「そうか。実はわしは、みんなにきらわれておる疫病神(やくびょうがみ)だ。だがお前は、そんなわしに親切にしてくれた。魚をもらった礼に、いいことを教えよう。よく聞いておけ。『釣り舟清次』と書いた紙を家の戸口に貼っておけば、わしはその家には決して入らないし、もし入っていても、すぐに出て行くだろう」
「ほっ、本当ですか! ありがとうございます」
 清次は話をきいて、うれしくなりました。
 疫病神が決してこないなんて、こんないい事はありません。
 清次が頭を深々と下げると、疫病神の姿は、もうどこにもいませんでした。
 家に帰ると清次は、さっそくこの不思議な話を家族や長屋の人たちにしました。
 それからしばらくたった、ある日の事です。
 長屋の奥にすむ藤八(とうはち)のおかみさんが、はやり病にかかって苦しみ出したのです。
 藤八は清次の話を思い出すとすぐに飛んでいって、『釣り舟清次』と、紙に書いてくれとたのみました。
 そしてその紙を自分の家の戸口に貼り付けると、不思議な事におかみさんの病は、もう治っていたのです。
「清次さんよ、わしにも書いておくれ」
「わたしにも書いてくだされ。お金なら、たんと払いますので」
 うわさを聞いた人たちが、ひっきりなしに清次の家へやってくるようになりました。
 それから清次は、もう釣り舟を出すことはなく、毎日毎日、『釣り舟清次』という字を紙に書いて、疫病除けのお札をつくるようになったという事です。

おしまい

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