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2008年 5月11日の新作昔話

つりの先生

つりの先生
江戸小話

《つり、おしえます》
と、書かれたかんばんを見つけた男が、頼み込みました。
「弟子にしていただけますか?」
「それはかまわんが、その前に、みどころのあるなしを調べねばならん。このつりざおを持って、二階へあがって糸をおろしなさい」
 男が言われた通りにすると、先生はおりてきた糸の先を、ちょっと引っ張りました。
「これは何のひきか、おわかりかな?」
「わかるとも、ハゼだ」
「残念じゃが、キスにござる。では、これはどうじゃな?」
「セイゴ(→スズキの子)かな」
「いや、クロダイの子のチンチンでござる。では、これならおわかりじゃろ」
「えーと、アイナメのようだが」
「またもはずれ。カレイにござるよ。あなたはよくよく感がにぶい。今度こそ当てなさいよ。子どもにもわかる答えじゃから」
 先生は言うがはやいか、つり糸の先を力いっぱい、ぐいーっとひっぱりました。
 男はふいをくらって、二階からまっさかさまです。
「あたたたたたっ!」
 ひたいのこぶをおさえながら、男は泣きっ面で聞きました。
「今のはかなりの大物でしたが、ブリですか? カツオですか?」
「残念ですが、あなたには見込みがありませんね。カッパのひきもわからんようでは、とうてい無理でござる。つりはあきらめなさい」

おしまい

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