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2008年 5月28日の新作昔話

海の水はなぜからい

海の水はなぜからい
ドイツの昔話

 むかしむかし、ある村に、お金持ちの兄と貧乏な弟がすんでいました。
 クリスマスの晩、弟のハンスは兄さんのラルスの家へいってたのみました。
「兄さん、すまないが、食ベ物を少し分けてもらえないか?」
 ハンスは子どもがいるのに、何ひとつ食べる物がなかったのです。
 兄さんは、冷たくいいました。
「またか、困ったやつめ。いいか、これで最後だぞ。もう二度とこないでくれよ。ほら、このブタ肉を持って、とっとと地獄へでもいっちまえ」
 そして、ブタ肉をなげてよこしたのです。
 でもハンスは、とてもすなおな性格だったので、
「ありがとう兄さん。その通りにします」
 そういって、地獄をたずねて歩きました。
 あちこち歩き回っていると、丘で穴をほっているおじいさんに出会いました。
「どこへいくんだね? 日がくれるってのに」
 おじいさんに聞かれたハンスは、
「地獄へいく道を探しているんだ。兄さんが、この肉を持って地獄へ行けっていうもんで」
 すると、おじいさんはいいました。
「では、この穴をおりていくといい」
 そこでハンスは穴の中に入りこみ、ドンドン下へおりていきました。
 しばらくいくと道のまん中に、メラメラと火の燃えているところがありました。
 そのまわりを、悪魔がはね回っています。
 悪魔は、ハンスのそばへ寄ってきてたずねました。
「おいおい、お前、どこへいくんだい?」
「地獄へさ」
「ここが地獄さ。それで、何をしに来たんだい?」
「このブタ肉を、買ってもらおうと思って」
 すると悪魔は、とびあがってよろこびました。
「ウヒヒッ。ちょうど、ほしかったとこさ」
 悪魔はどこからか、うすを出してきて、
「これととりかえようぜ。魔法のうすだよ。心の中でほしいものを思うだけで、何でも出てくる。いらなくなったら、こういえばいいんだ」
 そして何やらヒソヒソと、ハンスにささやきました。
 ハンスはよろこんで、うすを持って帰りました。
 家に帰ると、魔法のうすにロウソクや食べ物をたくさん出させたので、奥さんも子どもも大喜びです。
 やがて、このうすの事を知った兄さんがやってきました。
「ハンス、そのうすを売ってくれ」
「あと半年したら、売ってあげますよ」
 半年後、うすを手に入れた兄さんは、
「うすよ、うす。スープとニシンを出してくれ」
 たちまち、スープとニシンがどんどん出てきました。
 けれど止め方を知らないので、スープとニシンが家から洪水(こうずい)のようにあふれ出しました。
「ハンスたのむ、止めてくれ! うすは返すから」
 こうしてうすは、またハンスの物になりました。
 そしてハンスは、うすのおかげですっかり大金持ちになったのです。
 ある時、塩を運ぶ船の船長が、ハンスの家をたずねてきて言いました。
「ハンスさん、そのうすをゆずってくれませんか? お金はいくらでも出しますから」
 そこでハンスは、うすを売ることにしました。
 けれど船を出してまもなく、船長がうすに塩を出せといったからたまりません。
 塩はドンドンあふれて、どうにも止まらず、とうとう船は塩の重さに、うすごと海にしずんでしまいました。
 それで今でも、海の水はからいのです。

おしまい

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