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2008年 7月11日の新作昔話
お岩のたたり
東京都の民話
今から三百年ほどむかし、江戸の四谷左門町(よつやさもんちょう)に、お岩という、家柄の良い娘がいました。
ですが気の毒にも、五歳の時に疱瘡(ほうそう→天然痘)をわずらい、それはみにくいあばた顔になってしまいました。
父親は年頃になった娘をあわれに思って、一人の浪人を連れてきました。
長い貧乏暮しが嫌になった浪人は、ひどい顔のお岩でも、婿(むこ)になってもいいと言ったのです。
婿は父親によく仕え、お岩も大切にしました。
そして父親が亡くなってからも、まじめに働きました。
おかげで上役にも、大変好かれました。
中でも特に目をかけて、家へもよく招いてくれる上役がありました。
そして何度も家に招かれるうちに、婿はその屋敷で働く女中を好きになったのです。
女中の方も、真面目で男らしい婿を好きになっていました。
だけど婿は、もしもお岩と別れたら、もとの浪人にもどらなければなりません。
恋しい女と一緒になれない婿は、みにくい顔のお岩が嫌でたまらなくなりました。
そしてそのうちに、家財を売りとばしては酒を飲み、仕事もさぼるようになってきたのです。
困ったお岩は、目をかけてくれた上役のところへ相談に行きました。
ところが婿と女中の関係を知っていた上役は、可愛がっている婿と女中をくっつけてやろうと思い、お岩にこう言ったのです。
「いったんどこかに身をかくしていなさい。婿によく言い聞かせて改心させた後、きっと迎えにやらせるから」
「はい。おたのみ申します」
お岩は上役の言葉をありがたく聞いて、さっそく遠い武家屋敷に女中として出ました。
それを喜んだ婿は、
「お岩は家柄を捨てて、どこかへ出て行きおった」
と、言いふらし、堂々と上役の女中と夫婦になったのです。
人のよいお岩は、婿が迎えに来る日を楽しみに待っていました。
しかし、何年たっても婿は迎えに来てくれません。
そんなある日のこと。
お岩のいる屋敷へ、以前、お岩の家にも出入りしていた、たばこ売りがやって来ました。
たばこ売りはお岩に婿の様子を聞かれて、言いにくそうに、新しい奥方とのことを話しました。
それを聞いたお岩は、みるみる青ざめて、
「うらめしや、よくも私をだましたね!」
と、素足のまま飛び出していったのです。
そしてそのまま、行方知れずになってしまいました。
ところがそれからというもの、婿のまわりにつぎつぎと奇怪なことがおこりました。
新しい妻と婿が寝ていると、お岩の幽霊がやって来て、恨めしそうにじっと見つめているのです。
そして生まれた子どもは急に病気になり、そのまま苦しんで死んでしまいました。
やがて新しい妻の美しい顔が、だんだんと醜いお岩の顔になってきました。
そしてついには、二人とも狂い死にしたのです。
また、お岩をだました上役の家族も、お岩にのろい殺されてしまいました。
それ以来、お岩の家の跡に住む人は、かならず原因不明の病気で死んでしまうので、たたりを恐れた人々は、家の跡にお稲荷さんを建てて、お岩の供養をしました。
それ以来、お岩のたたりはなくなったということです。
おしまい
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