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2008年 7月13日の新作昔話
石になったオオカミ
岩手県の民話
むかしむかし、あるけわしい山のふもとに、家が二十軒ばかりの小さな村がありました。
ある年の正月の夕方のこと、どこから来たのか、吹雪の中をまずしい旅姿の母と娘がこの村を通りかかりました。
歩きつかれた母と娘は一晩泊めてもらおうと、村の家々をたずねましたが、見知らぬ者を泊めてくれるところはありません。
でもやっと、ある家のおばあさんが、
「それでは、村はずれのお寺へ行きなさい」
と、道を教えてくれました。
母と娘はやっとの思いで、お寺へたどりつきましたが、ここでも二人を泊めてはくれません。
でも、
「本堂の縁の下でよければ、かってに泊まっていけ」
と、言ってくれました。
その夜、母と娘は雪がふきこむ本堂の縁の下で、ブルブルとふるえながら抱きあっていました。
夜ふけになると、裏山ではオオカミたちが大きな声でほえていました。
そして夜が明けると、本堂の縁の下にあみ笠をひとつ残して、母と娘の姿は消えていました。
さて、それから何ヶ月かたったある秋の日のことです。
となり村で用事をすませたお寺の和尚さんが夜の山道を帰ってくるとき、峠で六頭のオオカミにおそわれて殺されてしまいました。
そこで村人たちは、腕のいい熊平(くまへい)という猟師にオオカミ退治を頼みました。
熊平はオオカミがすむほらあなをさがしだすと、近くの木にのぼってオオカミが出てくるのを待ちました。
しばらくすると、六頭のオオカミがほらあなから出てきました。
「いまだ!」
ドスーン!
ドスーン!
熊平は狙いをつけて次々と鉄砲をうちましたが、オオカミたちはすばやく身をかわしてしまうので、一発も当たらないうちに玉がなくなってしまいました。
そして玉がなくなった事を知ったオオカミたちは、熊平がいる木の下へ走っていきました。
そのときです。
オオカミがすむほらあなから、一人の娘が出てきました。
娘はお寺の縁の下から姿を消した、あの娘です。
母親はいませんが、娘は生きていて、なんとオオカミと一緒にくらしていたのです。
娘はオオカミたちに、大声でさけびました。
「その人には、帰りを待つ家族がいる。もう許してやりなさい!」
娘の声をきくと、オオカミたちはすぐに木の下をはなれて、ほらあなへもどっていきました。
それから年がかわったある冬の夜、六頭のオオカミが村を襲いにきました。
するとまた、あの娘があらわれて、
「この村には吹雪の晩、お寺への道を教えてくれた、やさしい心をもった方がいるんだよ。暴れずに帰りなさい」
と、オオカミたちに言ったのです。
するとそのとき、村の猟師の放った矢がとんできて、娘の胸につきささりました。
娘はその場にばったりと倒れて死んでしまい、オオカミたちはいつのまにかいなくなってしまいました。
それからしばらくして、村の人が峠の道の脇で、六頭のオオカミが石になっているのを見つけました。
それから毎年、娘が死んだ日の夜になると、石になったオオカミたちの悲しそうな遠ぼえが、峠の道から聞こえてくるという事です。
おしまい
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