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2008年 8月3日の新作昔話
幽霊船
むかしむかし、いく人かの漁師が船にのりこんで、とおくの海へカツオをとりにでかけました。
ところがめざす海へつかないうち、夜になってしまいました。
帰ろうにも向かい風が強くて、船は思うように進めません。
「おや、あれはなんだ?」
見張りの男が、向かい風に逆らいながら近づいてくる船を見つけました。
船べりにも、ほづなにも、青白い火が数え切れないほどともっています。
「ゆ、幽霊船だぞ!」
それは万灯船(まんとうせん)とよばれる幽霊船で、このあたりの海にだけ現れるのです。
「いいか。ぜったいに、口をきいてはいかんぞ」
「それに、『ひしゃくで水をくれ』といわれても、ひしゃくの底を抜いてわたさんと、そのひしゃくで船に水をかけられて、船をしずめられるぞ」
漁師たちはもう、生きた心地がしません。
幽霊船は滑るように近づいてきて、へさきを並べました。
船べりには、ひたいに三角のきれをつけた幽霊たちが、
「水をくれ〜」
「たのむから、ま水を飲ませてくれ〜」
と、かぼそい声をしぼり出して言います。
幽霊は、男だけではありません。
女や子どもたちも、まじっています。
これを見た船頭は、漁師たちにいいつけました。
「おい。水のたるを五つ六つ、持ってこい」
「なにをいうだ! とんでもねえ!」
漁師たちは、反対しましたが、
「海の上で飲み水がないくらい、つらいことはない。相手が幽霊船だとしても、ここはなさけをかけてやろうではないか」
と、船頭はそういって、幽霊船になわを投げ渡して水のたるを次々とつるし、幽霊たちにたぐらせました。
船べりの幽霊たちは、うれしそうにいくつもの水だるを受け取ると、ゆっくりとその場をはなれていきました。
やがて風もおさまって、朝にはすっかり波のおだやかな海になりました。
そして漁を始めたところ、たちまちの大漁です。
それからというもの、この船頭の船は漁に出るたびに、必ず大漁だったそうです。
おしまい
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