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2008年 8月14日の新作昔話

幽霊の泣き声

幽霊の泣き声

 むかしむかし、あるところに、三太(さんた)という男がいました。
 三太には近くの村へ嫁入りをしている、およしという妹がいます。
 そのおよしが、とつぜん病気でなくなったのです。
 さっそく嫁入り先にかけつけて、無事に葬式もすませました。
「やさしい妹だったのに・・・」
 その晩、およしのことを考えながら、村はずれの松林までもどってきたときです。
 ふいに後ろの方で、しくしくと泣く女の声がするのです。
「はて? こんなところで、だれが泣いているのかな?」
 ふりかえってみましたが、暗くてよくわかりません。
「気のせいか?」
 しばらくして歩きだすと、また後ろの方で、しくしくと泣く声がします。
 それも、どうもどこかで聞いたような泣き声です。
「あっ、あの声は、およしの声」
 しかし、墓の中でねむっているはずのおよしが、生きているわけがありません。
「ゆ、ゆ、幽霊か?」
 こわくなった三太は、そのまま後も見ずにかけだしました。
 ところが走っても走っても、およしの泣き声は追いかけてくるのです。
 三太は、やっとのことで自分の家にかけこみましたが、そのまま気を失ってしまいました。
「いったい、どうしたんだ?」
 家の人がおどろいて三太をだきおこすと、水を飲ませました。
 気がついた三太は、両手で耳を押さえて言いました。
「おっ、およしの幽霊だ。ほら、ほら、しくしくと泣いてる」
 しかし家の人は、三太の言うことを信じてくれません。
「何も聞こえないぞ。お前は妹をかわいがっていたから、そんな気がするんだ。さあ、風呂にでも入って、気持ちをおちつけろや」
「・・・そう、そうだな」
 三太は着物をぬぎ、風呂にとびこみました。
 ところがやっぱり、泣き声が聞こえてくるのです。
「およし、おら、どうすればいいんだ?」
 風呂に入ったまま、三太は頭をかかえこみました。
 泣き声はだんだん近づいてきて、今度は目の前の壁の穴から聞こえはじめます。
 そればかりか、
「・・・あにさん、・・・あにさん。・・・苦しいよ、・・・さみしいよ」
と、呼びかけてくるのです。
 三太は、こわくてこわくて、もう気がくるいそうです。
 ついにたまりかねて風呂からとび出そうとすると、なんと壁の穴から、細くて青白い腕がにゅうっとのびてきて、三太の首すじをつかみました。
「きゃあーーーーーーーーーっ!」
 三太はさけび声をあげると、はだかのまま風呂をとび出して、みんなのいる部屋へかけこみました。
「どうした、そんなかっこうで」
 家の人はおどろいてたずねますが、三太は口をパクパクさせるばかりで、しゃべることができません。
 そして頭から布団をかぶって、がたがたふるえていました。
 それから何日たっても、三太の耳にはおよしの泣き声が聞こえるので、家の人は祈とう師(きとうし→神仏においのりをする僧侶や神官)を呼んで、幽霊を追いだすおまじないをしてもらいました。
 それからは、およしの声は聞こえなくなったそうです。

おしまい

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