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2008年 9月12日の新作昔話

竜になった娘

竜になった娘
大分県の民話

 むかしむかし、佐賀関(さがぜき)に、早吸日女神社(はやすいひめじんじゃ)という社がありました。
 その神社の神主夫婦には、いつまでたっても子どもが授からないので、夫婦は早吸日女の社に願かけをしていました。
 あるとき、用事で沈堕(ちんだ)の滝近くを通りかかった神主は、一匹の蛇が子どもたちにいじめられているのを見かけました。
 心のやさしい神主は子どもたちに金をあたえて、さっそくその蛇を逃がしてやりました。
 さて、その年の暮れの事です。
 ようやく望みがかない、ついに夫婦に可愛い女の子が生まれました。
 女の子は夫婦の愛情を受けて、美しくやさしい娘に成長していきました。
 ところがあるとき、どうしたわけか娘が重い病にかかってしまったのです。
 こうして娘は、毎日毎日、床にふせって暮らすようになったのです。
 そんなある晩の事、薬を持って娘の部屋を訪れた母親は、心臓がとまるぐらいびっくりしました。
 なんと部屋の中には、恐しい大蛇が真赤な舌を出しながら、とぐろを巻いているではありませんか。
 あまりの事に口もきけない母親に、大蛇はたちまち娘の姿にもどって言いました。
「私はむかし、沈堕の滝で父上に助けられた竜の化身です。ご恩返しにと、おそばにおいてもらいましたが、もう帰らねばなりません。どうか明朝、私を沈堕の滝へお連れ下さい」
 翌朝、夫婦は娘と共に、沈堕の滝へと向かいました。
 やがて滝のほとりまで来ると、娘はくるりと夫婦の方を向いて、
「長い間、お世語になりました。私はこの滝つぼに入って、竜となります。父上、母上、どうぞお元気で」
と、言い残すと、静かに滝に身を沈めました。
 そしてしばらくすると、滝の中からゴーゴーと音がして、やがて髪を振り乱した娘が現れて言いました。
「父上、どうか脇差しをお貸し下さい。この滝には主がいるので、その主を殺さねばなりません」
 父親が脇差を与えると、娘は再び滝に身を沈めました。
 やがて水底の方で大きな音がすると、みるみる水が真っ赤になって、滝の中から一匹の竜が姿を見せたのです。
 その口には、脇差しがくわえられています。
「おおっ、娘よ。お前は竜になったのか」
 夫婦が思わず手を合わせると、竜は大きくうなずいて水の中に消えてしまいました。
 それからは毎年一度、竜になった娘が早吸日女神社の宮の池に姿を現すのです。
 そしてその日は、神社の古井戸で竜が一夜をあかすといわれて、またその井戸をのぞくとたたりがあるというので、その日は誰も近づかないのだそうです。

おしまい

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