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2008年 9月16日の新作昔話
おキツネのお産
山口県の民話
むかしむかし、あるところに、とても腕のいいお産婆(さんば)さんがいました。
お産婆さんというのは、赤ちゃんを産む手伝いをしてくれる人の事です。
このお産婆さんに来てもらうと、どんなにひどい難産でも、ウソのように楽に赤ちゃんを産む事が出来ると評判でした。
ある夜の事、お産婆さんが寝ていると、ドンドンドンと誰かが戸をたたきました。
「はて、急なお産かな?」
急いで戸を開けると、このあたりでは見た事のない男の人が、ハァーハァーと肩で息をして立っています。
「お産婆さん、早く来てください。嫁が今苦しんでいます。初めてのお産なもんで、もうあばれて泣いて、見ていられません」
「はいはい、落ち着いて。それで、お宅はどちらかね?」
「わたしが案内しますので、急いでください」
男の人は、一刻をあらそう様子です。
お産婆さんは大急ぎで着がえて、お産に必要な物を持って外へ出ました。
「おや?」
外へ飛び出したお産婆さんは、首をかしげました。
外はまっ暗なのですが、男の人のまわりだけは、ちょうちんに照らされているように明るいのです。
不思議に思うお産婆さんの手を、男の人がぐいと引っぱって走り出しました。
「早く。早く、お願いします」
男の人と一緒に、どのくらい走ったでしょう。
気がつくとお産婆さんは、見た事もないご殿の中にいました。
そこでは数えきれないほどたくさんの女中さんがお産婆さんを出迎えて、口々に、
「奥さまを、よろしくお願いします」
と、頭をさげます。
ピカピカにみがきあげられた長い廊下を女中頭(じょちゅうがしら)に案内されると、金色のふすまが見えました。
「奥さまが、お待ちでございます」
女中頭に言われて部屋に入ると、大きなお腹をかかえた美しい女の人が、ふとんの上でころげまわっています。
「はいはい、落ち着いて。もう大丈夫ですから」
お産婆さんはやさしく言うと、女中頭にお湯や布をたくさん用意させて、さっそくお産にとりかかりました。
「さあ、楽にして。力を抜いて、がんばって」
すると、まもなく、
「フギァアーー!」
と、声をあげて元気な男の赤ちゃんが生まれました。
「ふう、やれやれ」
お産婆さんが汗をぬぐうと、さっきの男の人が入って来て、目に涙を浮かべて、お産婆さんにお礼を言いました。
「本当に、ありがとうございました。こんなにうれしい事はありません。どうぞ、あちらの部屋でゆっくりお休みください」
お産婆さんは、また長い廊下を連れていかれ、今度は銀色のふすまの部屋に案内されました。
「おや、まあ」
そこには黒塗りの見事なおぜんがあり、お産婆さんのために用意されたごちそうがならんでいます。
あまりのごちそうに、どれからはしをつけたらよいのか迷うほどです。
「ああ、ありがたい」
お産婆さんは、無事にお産をすませてほっとしたうれしさもあって、用意されたごちそうをパクパクと食べました。
そしてお腹いっぱいになると、今度はうとうと眠ってしまいました。
それから、どのくらい時間がたったでしょう。
コケコッコー!
一番鶏の鳴き声で、お産婆さんははっと目をさましました。
でも目をさました場所は小さな小屋の中で、お産婆さんはしきつめた草の上で寝ていたのです。
「なんとまあ、不思議な事もあるもんだねえ」
お産婆さんは村に帰ると、村の人たちにゆうべの事を話しました。
すると村の人たちは口々に、
「お産婆さんの評判を聞いて、きっと、キツネが頼みに来たにちげえねえ」
と、言ったそうです。
おしまい
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