きょうの日本民話
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2008年 10月27日の新作昔話
天より高い桜の花も
京都府の民話
むかしむかし、丹波(たんば)の山奥に一人の長者がいました。
ある日のこと、長者の家で働く、初吉、忠助、末蔵という三人の下男が、田のあぜに腰をおろしてこんな話をしました。
「どうだね、ひとつ自分たちが世の中で一番ほしいと思うものを言いあってみようじゃないか」
それはおもしろいと、一番年上の初吉から言うことになりました。
「わしはな、家の旦那のような暮しを三日でもしてみたいわい」
次の忠助は、
「わしは、白銀をかごに三杯持ってれば、他に望みはないよ」
と、言いました。
最後に末蔵は、
「わしは、旦那の娘の桜花さんと結婚できたら、他に望みはないよ」
と、いいます。
さて、この話をちょうど散歩にやってきた長者が、こっそりと聞いていました。
長者は家に帰って夕食の後、にこにこしながら、まず、初吉を呼びました。
「初吉や、お前たちが今日の昼、田のあぜで何を話していたか、わしに聞かせてくれないか」
すると初吉は、びっくりして、
「旦那さま、あれは、じょ、冗談です」
と、言いました。
すると長者は、
「冗談でもいい。言ってみなさい」
と、言うので、初吉は正直に答えました。
「へい。わしは三日でいいから、旦那さまのような暮しがしてみたいと、言ったんで」
すると長者は、初吉の願いを叶えてやることにしました。
次に忠助を呼ぶと、同じように聞き、忠助の願いである、かご三杯ほどの白銀を与えてやることにしました。
さて、最後に末蔵の番になりました。
末蔵は、顔をまっ赤にして長者の前でうつむいていました。
「末蔵、そうビクビクせず、言っていたことを話すがええ」
そこで末蔵は、思いきって、
「はい、旦那さま、どうか、ごかんべんを。わしは、お嬢さまの桜花さまの婿になれたら、他に望みはないと申したんで」
と、言いました。
すると長者は、しばらく考えていましたが、
「うむ。これは、むずかしいな。娘の気持ちもあるので、わしには何とも言えん」
「へえ、そりゃ、もう、ごもっともで」
少しは期待していた末蔵は、がっかりしながら引きさがりました。
さて、長者はすぐに娘の桜花を呼び出して、末蔵の望みのことを話しました。
すると桜花は、顔をまっ赤にしながら、
♪天より高い桜の花を
♪心かけなよ、こら末蔵
と、歌いました。
長者はそれを聞くと、また末蔵を呼んで、その歌を聞かせて、
「末蔵や。もしお前が、これより立派な歌をよんだら、娘に話して、お前の嫁にやってもええぞ」
「ほっ、本当ですか!」
末蔵はこれを聞いて、天にも昇る気持ちです。
「ああ、いい歌さえ出来たら、おれは日本一の幸福者になれるんや」
末蔵は一生懸命に考えて、こんな歌を紙に書いて長者のところに持って行きました。
♪天より高い桜の花も
♪散れば末蔵の手におちる
「なるほど。これは見事だ」
長者はとても感心して、約束通り、末蔵を桜花の婿にしてやったのです。
おしまい
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