きょうの日本民話
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2008年 12月15日の新作昔話
たばこのおかげ
千葉県の民話
むかしむかし、上総(かずさ→千葉県)の鹿野山(かのうざん)では、山を越える人が何人も行方不明になりました。
「なんでも、鹿野山には化け物がおって、そいつが人間をさらっていくらしい」
そんなうわさをしながら、里の人たちは鹿荷山には近づこうとはしません。
しかしほかに道がないので、鹿野山を越える人は、どうしてもそこを通らなければならなかったのです。
ある夏の事、たばこをたくさん仕入れて大きなふろしきにかついだ一人の商人が、この鹿野山にさしかかったのです。
しばらくのぼっていくと、にわかに、
「グワーッ!」
と、山が鳴りだしました。
「何事だ! ・・・あっ!」
なんと大木のような大蛇が、こっちへやってくるのです。
「ひゃーっ、助けてくれー!」
商人は里の方へ向くと、逃げて逃げて逃げました。
しかし人間がいくら走ったところで、大蛇の速さにはとてもかないません。
大蛇は商人の、すぐ後ろまできていました。
商人がふと見ると、道ばたに大きな木が一本あり、その根っこの近くに穴が開いていました。
(よし、ここだ!)
商人がその穴に駆け込み、やっと頭だけつっこんだときその時、
ガブリッ!
と、大蛇が大口を開けて、背中にかみついたのです。
「ウギャーーー!」
男は思わず叫びましたが、大蛇がかみついたのは背中にかついだふろしきで、大蛇はそのふろしきを一口に飲みこんでしまいました。
(あわわわわ、こんどこそ食べられる!)
商人は腰が抜けて動けず、ぶるぶるとふるえていましたが、大蛇はなかなか襲ってはきません。
(よっ、よし、いまのうちだ)
商人は起き上がると、里へ逃げ帰りました。
そして、里のみんなに言いました。
「大蛇じゃ! 大蛇にたばこをとられてしもうた。人を食う化け物は、大蛇じゃ!」
さて、それから何日かたったある日のこと。
里の若者が用事で、どうしても鹿野山を越えなくてはなりませんでした。
「話に聞いた大蛇が、出なければよいが」
若者が、びくびくしながら山道を急いでいると、
「なっ、なんじゃ、あれは? 木が倒れたのか?」
よく見ると、それはあの大蛇ですが、大蛇は白いお腹を上へ向けたまま、ぴくりとも動きません。
「はて? あいつ、動かぬぞ」
どうやら、大蛇は死んでいる様子です。
若者は勇気を出して、大蛇に近づきました。
近寄ってみると、大蛇はやっぱり死んでいました。
「それにしても、どうしてこんなところで死んでおるんじゃろう?」
しばらく考えていた若者は、大蛇の口元にたばこの葉っぱがついているのを見つけました。
「なるほど、そうか、いくら大きなうわばみでも、たばこの毒にあたってはかなうまい」
男は用事をすませて村に帰ると、見てきた通りを話しました。
「やれやれ。これで安心だわい。だが用心のために、これから鹿野山を越えるときは、たばこを用意しよう」
それから鹿野山を越える人は、たばこを持って行くことにしたそうです。
おしまい
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