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2009年 6月15日の新作昔話
川場温泉
群馬県に伝わる弘法話
むかしむかし、川場温泉というところはとても水不足で、温泉どころか、普段の飲み水にも困っていました。
そんなある日の事、旅の途中の弘法大師がこの地を訪れて、一人の老婆に水を頼みました。
「すみません。長旅でのどが渇いて困っております。どうか、水をめぐんで頂けないでしょうか?」
すると老婆は、にっこり笑って、
「はい。それではこれをどうぞ」
と、貴重な水を、大師に差し出したのです。
「ありがたい。これは、おいしそうだ」
大師はそれをゴクゴクと飲み干すと、老婆に尋ねました。
「見たところ、このあたりでは水に不自由しておるようだが」
「はい。確かに水にも不自由しておりますが、このあたりは食べ物が悪いせいか、脚気になる者が多くいて困っております。もし、ここに温泉が湧いたら、どんなにか役に立つでしょうね」
「なるほど、温泉ですか。・・・やった事はないが、この土地なら」
大師はそう言うと、手に持った錫杖(しゃくじょう)の先で、地面を何度かコンコンと叩きました。
「よし、これならいけそうだ」
そして、錫杖を振り上げた大師が力強く振り下ろすと、そこからたちまち湯煙があがって、豊富なお湯がわきはじめたのです。
「これは、温泉! お坊さま、ありがとうございます!」
老婆は大喜びで大師にお礼を言おうとしましたが、気づいたときには大師の姿はなかったそうです。
川場温泉では今でも湯船のそばに弘法大師をまつっており、この温泉の湯は脚気に効くと評判だそうです。
おしまい
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