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2009年 10月30日の新作昔話
二本のロウソク
アンデルセン童話 → アンデルセンについて
むかしむかし、ある家のあるテーブルの上に、二本のロウソクが置かれていました。
一本は蜜蝋(みつろう)と言って、とても高価で上等なロウソクでした。
クルクルとねじった細身のデザインが、とってもおしゃれです。
もう一本はクジラの油から作られた、安物のロウソクでした。
上等なロウソクと違い、ただ丸めただけのおデブさんです。
蜜蝋は、自慢げに言いました。
「ぼくは、ほかのロウソクよりも格好良くて、しかもずっと明るく光るんだ。だからきっと、銀のロウソク立ての上に置かれるよ」
蜜蝋の言葉に、安物のロウソクがため息をつきました。
「いいなあ。ぼくも君みたいに、客間でパーティーに来る人たちを照らしてあげたいよ。でも、僕が行くところは、せいぜい台所さ」
その時、この家の奥さまがやって来て、安物のロウソクを手に取ると台所に持って行きました。
(やっぱり)
安物のロウソクは、がっかりです。
台所には、カゴをかかえた小さな男の子が立っていました。
そのかごの中には、たくさんのジャガイモと、いくつかリンゴが入っています。
奥さまが、男の子に言いました。
「さあ、このロウソクも持って行きなさい。あなたのお母さんは、夜遅くまでお仕事をなさるでしょうから、これが役立ちますよ」
すると、それを聞いたこの家の小さな女の子が言いました。
「あら、わたしだって、夜遅くまで起きているわ。だって今夜は、ダンスパーティーがあるんですもの。わたしも、大きな赤いリボンをつけてもらうのよ」
安物のロウソクは、お星さまのようにきらきらと目を光らす女の子を見て、
「わあ。何て可愛い子だろう」
と、思いました。
「でも、ぼくはもう二度と、この子には会えない。蜜蝋くんは、きっと女の子とダンスパーティーを楽しむのだろうけど、ぼくは貧しい家に、もらわれていくのだから」
男の子はカゴにロウソクを入れると、みすぼらしい小さな家に帰りました。
この家のお父さんは、もう死んでしまって、お母さんが縫い物をしながら三人の子どもを育てていました。
男の子が、カゴをお母さんに差し出すと、
「まあ、いいロウソクをいただいて」
と、お母さんはとても喜んで、安物のロウソクに火をつけました。
そのとき、この家の一番下の女の子が入ってきました。
その子はにこにこしながら、お兄さんとお姉さんのところに行くと、
「あのね、問題だよ。今夜のごちそうは、なーんだ? えへへ。それはね、あったかいジャガイモだよ」
女の子はうれしくてたまらないというように、可愛い目をキラキラと輝かせました。
安物のロウソクは、その女の子を見てこう思いました。
「ああ、さっき見た、お金持ちの女の子と同じ目だ。むこうは豪華なパーティーで、こっちはジャガイモのごちそう。だけど、どっちの女の子も同じように幸せなんだなあ」
やがて、晩ご飯になりました。
「とてもおいしい、ジャガイモだね」
「それに、リンゴまであるんだよ」
「神さま、おめぐみありがとうございます」
にぎやかな食事がすむと、子どもたちはベッドに入って、お母さんからキスしてもらうと、すぐにすやすやねむってしまいました。
「楽しい夜だったなあ」
安物のロウソクは、この家族と一緒に幸せな時間を過ごせて、とても満足でした。
「もう蜜蝋くんが、うらやましくないや。みんな、それぞれに幸福があって、自分が幸福と感じられれば、それは幸福な事なんだ。だからぼくは、本当に幸福だ。・・・あっ、お母さんが、縫い物を始めるぞ。よーし、ぼくも頑張らなくちゃ」
おしまい
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