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2009年 11月18日の新作昔話
とげぬき地蔵(延命地蔵)
東京都の民話
江戸時代の中頃、江戸の小石川(こいしかわ→今の文京区)に、病気の妻を持つ田村という侍がいました。
侍はお地蔵さまを心から信心しており、毎日毎日、妻の病が早く治るように、
「帰命頂礼地蔵尊菩薩(きみょうちょうらいじぞうそんぼさつ)、帰命頂礼地蔵尊菩薩」
と、お地蔵さまをおがんでいました。
しかし妻の病気は悪くなる一方で、日に日にやせおとろえてゆくばかりです。
そんなある晩の事、侍の夢枕にお地蔵さまが現れて、
「妻の病を治したかったら、わしの姿を一万枚の紙に写して川に流せ」
と、言ったのです。
侍が、はっと目を覚ますと、不思議な事に、見た事のない小さな板が枕元にあったのです。
板をよく見てみると、何か人の姿が彫ってあるように見えたので、侍がその板に墨をつけて紙に押しつけると、何と紙にはお地蔵さまのお姿が写ったのです。
「これは、お地蔵さまからの授かり物に違いない! これを一万枚を作れば良いのだな」
侍はさっそく一万枚の紙にお地蔵さまを刷り、両国橋から隅田川へと流しました。
さて、その翌朝、妻は布団から起き出すと、
「あなた。たった今、夢の中にお地蔵さまが現れて、わたくしの枕元にいた死神を追い払って下さりました」
と、言ったのです。
そして妻の病気は日に日に良くなり、半月もしないうちに、妻は元の元気な身体へと戻ったのです。
それからこの話が広まり、お地蔵さまの姿を写した札は延命地蔵と呼ばれ、その札をもらいにくる人が次から次とやって来るようになったのです。
さて、このお話は、これで終わりではありません。
それからしばらくしたある日、有名な毛利家(もうりけ)の江戸屋敷の女中が、針仕事をしていて、うっかり口にくわえた針を飲み込んでしまったのです。
さあ、大変です。
すぐに知らせを受けた医者がやってきましたが、いくら医者でも、飲み込んだ針を取り出す事は出来ませんでした。
下手に吐き出さそうとしても、針が体に食い込むだけです。
そんな大騒ぎしているところへ、西順(せいじゅん)というお坊さんが通りかかりました。
その西順は、たまたま延命地蔵の札を持っていたので、
「このお地蔵さまのお姿の写された札を、水に浮かせて飲み込んでみなされ」
と、言ったのです。
そこで毛利家の者が、すぐに女中に紙を飲み込ませてみると、先程まで痛い痛いと苦しんでいた女中が、
「うっ!」
と、口から飲み込んだ紙を吐き出しました。
それを見てみると、その紙に飲み込んだ針が突き刺さって出てきたのです。
「これは、お地蔵さまのおかげだ」
それから延命地蔵は、『とげぬき地蔵』とも呼ばれて、ますます評判となりました。
やがて侍は、
「こんなありがたいお地蔵さまを、自分一人で持っていてはもったいない」
と、上野の車坂(くるまざか)にある高岩寺(こうがんじ)に、納める事にしたのです。
そのとげぬき地蔵(延命地蔵)は、明治二十四年、高岩寺とともに上野から山手線巣鴨駅の近くのに移り、今でも病気で悩んでいる人がお参りに来るそうです。
おしまい
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