きょうの新作昔話
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2009年 11月27日の新作昔話
月見草の嫁
新潟県の民話
むかしむかし、ある山奥の村に、一人の若い馬子(まご)が暮らしていました。
一日の仕事を終えた馬子が、家で一休みをしていると、
トン、トン、トン。
と、誰かが、家の戸を叩きました。
「はて? 今頃、誰だろう?」
馬子が戸を開けてみると、そこにはきれいな娘さんが立っていました。
娘は馬子に、ペコリと頭を下げて言いました。
「どうか今晩一晩、ここに泊めて下さい」
それを聞いた馬子は、少し困った顔で言いました。
「泊まると言っても、俺は貧乏で、お前さんに食わせる飯もないから」
「大丈夫。ご飯ぐらい、私が何とかします。お掃除もお洗濯もします。ですから、どうか泊めて下さい」
そこまで言われると、断る事が出来ません。
「そうか、なら、中に入れや」
馬子が娘を家に入れてやると、娘はさっそく掃除や洗濯を始めました。
そしてどこからか持ってきた材料で晩ご飯を作ると、馬子に差し出しました。
それは、今まで食べた事がないほどおいしい物でした。
すっかり満腹になった馬子は、その場にごろんと横になると娘に言いました。
「うまい飯を、ごちそうさま。俺は仕事が早いから、もう寝るぞ。お前は、好きな時に出て行っていいぞ」
さて次の朝、馬子は早くに家を出て夜遅くに帰ってくると、娘はまだ家にいたのです。
「お前、出て行かなかったのか?」
「はい、晩ご飯が出来ていますよ」
そして次の日も、そのまた次の日も、娘は家を出て行かず、一生懸命に家の仕事をしました。
そのうち、娘がすっかり気に入った馬子は、
「ああ、こんな良い娘が、俺の嫁だったらなあ」
と、つぶやくと、それを聞いた娘が馬子の前に正座をして、深く頭を下げて言いました。
「あなたさえよければ、どうか私を嫁にして下さい」
それを聞いた馬子は、びっくりしながらも、
「そうか。お前がその気なら、是非とも俺の嫁になってくれ」
と、言って、二人は夫婦になったのです。
さて、それからしばらくたった、ある日の事です。
馬に食べさせる草を刈っていた馬子は、その草の中に、きれいな月見草の花が一本混ざっているのに気がつきました。
「これはまた、きれいな花だな。嫁の土産に持って帰ろう」
そして家に帰った馬子は、その花を手に持って家に入りました。
「おーい、きれいな花があったぞ」
しかし、いつも出迎えてくれるはずの嫁が、今日は出てこないのです。
「おかいしな。どこに行ったのだろう?」
馬子が家の中を探していると、嫁は台所で朝ご飯を作りかけたまま倒れていたのです。
「おい! どうした!? どこか具合でも悪いのか!?」
馬子があわてて抱き起こすと、嫁は小さな声で言いました。
「あなた。実は私は、月見草の花の精なのです。毎朝、あなたの働く姿を見ているうちに、あなたの嫁になりたいと思うようになりました。そしてその思いがかなって、今日までとても幸せでした。ですが、あなたに刈られてしまったので、私の命もこれまでです。短い間でしたけれど、優しくして下さってありがとう」
嫁はそう言うと馬子に抱かれた姿のまま、だんだんと薄くなって、やがて消えてしまったのです。
おしまい
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