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2009年 12月25日の新作昔話
カイコになったお姫さま
ベトナムの昔話 → ベトナムの情報
むかしむかし、ある国の王さまが家来たちと狩りをしていると、突然、大勢の盗賊が襲ってきました。
家来たちは勇敢に戦いましたが、大勢の盗賊にはかないません。
とうとう王さまは、盗賊にさらわれてしまいました。
こうしてお城には、お后さまと、一人のお姫さまが残されました。
お后さまも、お姫さまも、家来たちも、何とかして王さまを取り戻そうと考えましたが、どうする事も出来ませんでした。
こうして、一年が過ぎました。
王さまが大好きだったお姫さまは、心配で食事もろくに喉を通らず、どんどんやせていきました。
「このままでは、姫が死んでしまうわ」
見かねたお后さまは、国中にこんなおふれを出しました。
《王さまを取り戻してきた者に、姫をお嫁にあげます》
さて、おふれが出てから三日後、一頭の白い馬が王さまを背中に乗せてお城に駆け込んで来ました。
「あなた!」
「お父さま!」
「王さま!」
お后さまも、お姫さまも、家来たちも、大喜びです。
白い馬は、さっそく大きな馬小屋に入れられて、たくさんのごちそうをもらうと、大事に大事にされました。
この白い馬、普段はとても大人しいのですが、お姫さまが側を通ると足をパカパカ動かして暴れるのです。
王さまは不思議に思って、お后さまにそのわけを尋ねました。
そしてお后さまから、おふれの事を聞いた王さまはびっくりして言いました。
「まさか、馬が姫を、お嫁にしたいというのではないだろうな」
「そんな事は。・・・でも馬は、とても利口な動物だといいますから」
「うむ・・・」
王さまは心配になって、馬小屋へ行って馬に尋ねました。
「お前は、もしかして姫を、お嫁にする気でいるのかい?」
すると馬は、
ヒヒーン!
と、とてもうれしそうにいななきました。
「何と! 馬のくせに、とんでもない奴だ!」
すっかり怒った王さまは、家来に弓矢を持ってこさせると、馬をめがけて矢を放ちました。
馬は悲しそうに王さまを見つめると、そのまま地面に倒れて死んでしまいましたが、王さまは馬を殺しただけでは気がすまず、馬の皮をはぐと、お城の庭の木から馬の皮をぶらさげました。
さて、その事を知ったお姫さまは、殺された馬が可愛そうでなりません。
「ひどいお父さま。何も殺さなくてもいいのに」
そこで庭に誰もいなくなると、お姫さまは馬にあやまろうと思って、そっと一人で木のそばに行きました。
「お馬さん、ごめんなさい。お父さまを助けてくれたのに、こんな事になってしまって」
その時です。
突然、強い風が吹いて来て、木の枝にかかっていた白い馬の皮が空に舞い上がりました。
空高く舞い上がった馬の皮はヒラヒラと降りてくると、びっくりして立っているお姫さまを、すっぽりと包み込んでしまいました。
そしてお姫さまを包み込んだまま、また空高く舞い上がってしまいました。
しばらくして、王さまやお后さまは、お姫さまがいない事に気がつきました。
「姫はどこへ行った?!」
お城中が、大騒ぎとなりました。
みんなで探して探して、とうとう一人の家来が、庭のはずれのくわの木に、白い馬の皮が小さくなってくっついているのを見つけました。
よく見ると馬の皮はまゆ玉になり、その中でお姫さまはカイコになっていたのです。
こうして心のやさしいお姫さまは、世の中で最初のカイコになったのでした。
おしまい
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