2010年 9月6日の新作昔話
ピントコ坂
長崎県の民話
長崎の小島(こしま)から茂木(もぎ)へと続く道に、『ピントコ坂』と呼ばれる急な坂があります。
何でも、中国の何旻徳(かびんとく)という人の名前がなまって、『ピントコ坂』とつけられたそうです。
このびんとくさんという人は、もともと中国の杭州(こうしゅう)に住んでいました。
びんとくさんには、柳氏(りゅうし)という美しい許嫁(いいなずけ)がいましたが、どんな事情からか、その娘を国の大守(たいしゅ→大名)に奪われてしまい、それ以来、中国に住むのが嫌になったびんとくさんは、貿易をしている叔父さんを頼って長崎に渡ってきたそうです。
ある年の正月、友だちに誘われて、びんとくさんは丸山(まるやま)の盛り場を歩いていました。
くるわの石畳を通って筑後屋(ちくごや)という店の前まで来たとき、ふと、店に座っている一人の遊女(ゆうじょ)に目をやったびんとくさんは、
「あっ!」
と、声をあげたまま、その場に釘付けになってしまいました。
驚いた事に、その女は許嫁だった柳氏(りゅうし)に瓜二つだったのです。
それからというもの、びんとくさんは毎日のように、その女のもとへ通い続けるようになったのです。
登倭(とわ)というその女も、びんとくさんが好きになりました。
さて、当時の長崎の町では、大量の偽金が出回っていました。
そして、本当かどうかはわかりませんが、
「あの偽金は、中国人が作った物だ」
と、うわさが広まって、たくさんの中国人が捕まったのです。
そして、びんとくさんまでもが、捕まってしまいました。
何でも、登倭(とわ)に思いを寄せる町役人が、恋敵のびんとくさんを罪人におとし入れたという事です。
とうとう、びんとくさんは、偽金作りの汚名をきせられたまま、処刑されてしまいました。
残された登倭は、びんとくさんの遺体をもらい受けると、泣く泣く今の小島の坂の途中に手厚く葬ってやり、そうして自分もその場で自害して果てたと言われています。
その塚は傾城塚(けいせいづか→おいらんの墓)と呼ばれ、今もこの坂の上にひっそりと立っているそうです。
おしまい
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