2011年 3月7日の新作昔話
開聞岳(かいもんだけ)の岩石男(がんせきおとこ)
鹿児島県の民話
むかしむかし、開聞岳(かいもんだけ)の山の中に、まっ黒な大男が住んでいました。
大男はとても力が強く、村に来ては田畑を荒らしました。
困った村人たちはあちこちに大男退治を頼みましたが、誰もこわがって大男退治を引き受けてはくれません。
そんなある日の事、その大男が村の娘を一人さらってしまいました。
これを聞いた一人の侍が、
「田畑を荒らすだけならともかく、娘をさらうとは許せん!」
と、大男退治に出かけたのです。
しかし次の朝、侍は折れた刀をつえに、ボロボロの姿で帰ってきました。
村人たちが侍を介抱すると、侍はくやしそうに言いました。
「娘は、山のほら穴の中で大男と一緒にいた。
娘を助けようと大男に戦いをいどんだが、大男の体は岩の様に固く、刀もわたしもこのざまだ。
しかしこのまま引き下がっては、武士の名折れ。
この次こそは、必ず退治してくれよう」
その夜、さらわれた娘が、ひょっこりと村に戻ってきました。
「わたしは今、山で大男の妻にされています。
あの大男は、溶岩から生まれた岩石男です。
体は岩の様に固く、刃物ではどうする事も出来ません。
ただ、岩石男から、こんな話を聞いたのです。
溶岩が固まる時、背中の左の肩の下に榊(さかき)の葉がついて固まったので、そこだけが人間のようにやわらかいと。
岩石男が寝ているすきに、岩石男の着物に目印をつけました。
もうすぐ岩石男が目を覚ますので、わたしは帰ります。
お願いです、どうか岩石男を退治してください」
娘はそれだけ言うと、急いで山へ帰って行きました。
それを聞いた侍は、傷だらけの体で立ち上がりました。
「よし、たとえ一点でも、刀の通用するところがあれば勝てるだろう。今後こそ退治して、娘を救い出してくれよう」
侍は次の朝早く、折れた刀を持って山に出かけました。
そして侍は決死の戦いの末に岩石男を退治して、娘を無事に連れて帰ってきたのです。
おしまい
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