2011年 3月18日の新作昔話
三年みそとナス
福島県の民話
むかしむかし、キノコがたくさんとれる山がありました。
あまりにもたくさんとれるので、村人たちは畑仕事もせずに、キノコ取りに夢中です。
ところがある年、いつもはおいしいはずのキノコが、すこしもおいしくないのです。
それどころかキノコを食べて、病気になる人が次々と出てきたのです。
キノコが大好きな村は、大騒ぎになりました。
そんなある日の事、やたろうという若者の所へ、隣に住むおたえのお母さんが青い顔で飛び込んできました。
「やたろう! 大変じゃ! おたえがキノコの毒にあたって、今にも死にそうじゃ!」
「何だって!」
やたろうは裸足のまま家を飛び出すと、おたえの家へ飛び込みました。
やたろうとおたえは結婚の約束をしており、おたえはやたろうにとって自分の命より大切な娘です。
やたろうが部屋に上がると、おたえが口から泡をふいて苦しんでいました。
「おたえ、しっかりしろ! おたえ!」
やたろうは何度も声をかけましたが、おたえは返事をしません。
「神さま仏さま! どうか、どうか、おたえをお助けてください!」
いつもは神さまも仏さまも信じていないやたろうも、この時は心の底から祈りました。
その時です。
♪タンテン、トコテン。
♪トントン、トン。
と、聞いた事もない不思議な音が、どこからか聞こえてきたのです。
「何の音だ?」
やたろうが耳をすますと、不思議な音はやたろうの家の縁の下から聞こえて来るのがわかりました。
♪タンテン、トコテン。
♪トントン、トン。
「もしかして、化け物だろうか?」
やたろうは怖くなりましたが、でも不思議な音は、なんだか楽しそうに聞こえます。
やがて不思議な音にまじって、こんな歌も聞こえて来ました。
♪タンテン、トコテン。
♪トントン、トン。
♪三年みそと、ナスこわい。
♪三年みそと、ナスこわい。
「三年みそと、ナスこわいだと?」
やたろうは勇気を出して、縁の下を見てみました。
すると縁の下で、何とキノコたちが踊っていたのです。
♪タンテン、トコテン。
♪トントン、トン。
♪三年みそとナスこわい。
♪三年みそとナスこわい。
見ているうちに、やたろうは楽しくなってきました。
そしてその時、つい、くしゃみをしてしまったのです。
「はっくしょん!」
キノコたちは驚いて、あっという間にどこかへ行ってしまいました。
「消えたか。しかし、おもしろい歌だったな。♪三年みそとナスこわい ♪三年みそとナスこわい」
やたろうは口ずさんで、ハッと気がつきました。
「キノコは、三年みそとナスがこわいと歌っていたぞ! もしかすると!」
やたろうは家を飛び出すと、おたえの家に駆け込みました。
そして土間にあるナスと三年物のみそを鍋に放り込み、ぐつぐつと煮こんだのです。
やたろうは出来上がったナスのみそ汁を、苦しむおたえの口に入れてやりました。
「さあ、おたえ、食うんだ。もしかすると、治るかもしれんぞ」
するとそのとたん、おたえは目をパッチリと開けて、にっこり微笑んだではありませんか。
「おたえ!」
やたろうは大喜びで、大切なおたえを抱きしめました。
それからこの地方では、きのこはナスとみそで煮て食べるようになったそうです。
おしまい
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