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2011年 3月21日の新作昔話

犬鳴山(いぬなきやま)

犬鳴山(いぬなきやま)
和歌山県の民話

 寛平二年の三月。
 一人の狩人が愛犬を連れて葛城(かつらぎ)の山中に入り、一頭のシカを見つけました。
(よし、よい獲物)
 狩人が弓を放とうとしたとき、愛犬がけたたましくほえたので、せっかくのシカを逃がしてしまったのです。
「こら! どうした! ほえるのをやめろ!」
 しかし犬は、ほえるのをやめません。
 そのうちに腹を立てた狩人は、腰にさしていた刀で愛犬の首を切り落としてしまいました。
 ところが不思議な事に愛犬の首は空中に舞い上がったまま、いつまで待っても落ちてきません。
 狩人が上を見上げると、大木からぶらさがった大蛇ののどに愛犬の首が食いついていたのです。
 愛犬は主人に襲いかかろうとしている大蛇を見つけて必死にほえたのですが、狩人はそれに気づかずに首をはねてしまったのでした。
 でも愛犬は首を切られた後も主人を救おうと、首だけで空中に飛び上がり、大蛇ののどに食いついたのです。
「おれは、何て事を。すまなかった」
 狩人は愛犬に泣いて謝り、手厚くほうむってやりました。

 その後、この話しを聞いた村の年寄りが、狩人に言いました。
「犬は、不動(ふどう)さんのお使いだ。この山にある七宝滝寺(しっぽうりゅうじ)の本尊の不動さんが、あんたの命を救ったのだろう」
 狩人はこの話しを聞くと髪を切って仏門に入り、二度と殺生はしなかったそうです。

 やがてこの話は天皇の耳に入り、七宝滝寺に犬鳴山(いぬなきさん)の号が下賜(かし)されたそうです。

おしまい

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