2011年 4月20日の新作昔話
こぼれる、こぼれる
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とんちの上手な人がいました。
ある日の事、村の男たちがお堂に集まって、酒もりをしていました。
そこへきっちょむさんが手ぶらでやって来て、酒やごちそうをさんざん飲み食いすると、
「それでは、ごちそうさん」
と、言って、さっさと帰ってしまいました。
その場にいた男たちは、カンカンです。
「なんだ、きっちょむさんのやつ。手ぶらで来たくせに、さんざん飲み食いしやがって」
「そうだ! 今度手ぶらで来たら、追い返してやろう!」
すると、それを知ったきっちょむさんは、
「そうか、手ぶらでは入れてくれんか。まあ、入ってしまえばどうとでもなるが」
と、ある作戦を考えました。
次の晩、今日も村の男たちがお堂で酒もりをしていると、きょむさんがまたしても手ぶらでやって来ました。
しかしお堂の戸が、ピタリと閉められています。
「おーい、開けてくれ」
きっちょむさんが声をかけると、中にいる男たちが言いました。
「酒を買って来るまでは、中に入れてやらん」
するときっちょむさんが、待ってましたとばかりに言いました。
「何を言っている! はやく開けてくれんと、こぼれてしまうだろう! ああ、こぼれそうじゃ、こぼれそうじゃ」
「何じゃ、それをはやく言え」
男たちはてっきり、きっちょむさんがお酒を買って来たものだと思って急いで戸を開けました。
ところがきっちょむさんは、いつもの通りの手ぶらだったのです。
男たちは、きっちょむさんに文句を言いました。
「何だ?! 『こぼれそうじゃ』と言うから開けてやったのに、今日も手ぶらじゃねえか。きっちょむさん、よくもうそをついたな!」
するときっちょむさんは、平気な顔で言いました。
「なにが、うそなもんか。
わしはな、さむくてさむくて、鼻水が『こぼれそうじゃ』と言ったんじゃ。
・・・おや?
今日はなべか、これは体があたたまりそうじゃ」
きっちょむさんはわざと鼻水をすすり上げると、またしても手ぶらで飲み食いをしたのでした。
おしまい
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