2011年 8月17日の新作昔話
妖怪の恩返し
むかしむかし、ある村の川のふちに、妖怪が現れるという、うわさがたちました。
何でもそれは黒い着物を着た体の細長い妖怪で、顔がぬめぬめしているそうです。
するとそのうわさを聞いた、村一番の力持ちが、
「よし、おれがその妖怪の正体を突き止めてやろう」
と、刀を持って川のふちへと出かけました。
「妖怪よ、出てこい! このおれさまが、退治してくれよう!」
すると風もないのに柳の枝がさあーっとなびいて、川の中から妖怪が現れました。
確かに黒い着物を着た細長い妖怪で、顔がぬめぬめしています。
普通の男なら、ここで腰を抜かしてしまうでしょうが、さすがは妖怪退治をしようとする若者で、怖がるどころか腰の刀を抜いて、
「出たな妖怪! 覚悟!」
と、斬りつけたのです。
妖怪はその刀を何とかわかすと、若者に手を合わせて頼みました。
「お待ちください。
わたしは、近くの沼に住む大うなぎの母親です。
実は、この間の大水で流されてきた大木の根っこが、わたしのねぐらの入口に引っかかってしまい、子どもが中に閉じこめられてしまいました。
わたしの力ではどうする事も出来ないので、これを取りのぞいてくれる人を探そうと、ここへ現れたのです」
「なるほど、そういうわけだったのか。よし、おれが何とかしてやろう」
若者は大うなぎの妖怪に案内されて沼にやってくると、ふんどしひとつで沼に飛び込みました。
もぐってみると、大木の根っこが横穴の入口に引っかかっています。
「これだな、よし」
若者は自慢の力を込めて、木の根っこを取り除いてやりました。
「ありがとうございます。おかげさまで、子どもが助かりました。本当に、ありがとうございます」
「礼はいい。では他の者がびっくりするから、もう出てくるんじゃないぞ」
若者はそう言うと、村に帰っていきました。
大うなぎの妖怪は若者の姿が見えなくなるまで、ずっと若者に手を合わせていました。
さて次の朝、若者が仕事に出かけようとすると、大うなぎの母親のお礼なのか、家の外には沼の小魚やエビなどが、山のように積まれていたということです。
おしまい
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