2011年 9月28日の新作昔話
太郎の横笛
三重県の民話
むかしむかし、あるところに、横笛作りの名人がいました。
横笛作りの名人には美しい奥さんと、太郎と言う可愛い息子がいたのですが、奥さんは太郎が二歳になる前に死んでしまったのです。
名人は、横笛を作りながら一人で太郎を育てていましたが、仕事をしながらの子育ては大変なことです。
そこで知り合いの紹介で、名人は新しい奥さんをもらったのです。
こうして太郎に新しいお母さんが出来ましたが、そのお母さんは次郎と三郎という二人の弟を産むと、自分が産んだ次郎と三郎ばかりを可愛がって、太郎をいじめるようになったのです。
新しいお母さんから毎日いじめられた太郎は、夕暮れになると家を抜け出して、裏山にある死んだお母さんのお墓に行きました。
「母ちゃん、おら、はやく母ちゃん所へ行きてえ。今の母ちゃんは、おらの事が嫌いなんだ」
そして太郎は、死んだお母さんの形見の横笛を吹くのでした。
その太郎の悲しい笛の音色は村のすみずみにまでいきわたり、それを聞いた村人たちは思わず涙を浮かべるのでした。
「ああ、今日も太郎の笛が聞こえる」
ある日の事、太郎の二人の弟たちが、太郎が大切にしている横笛をへし折ったのです。
すると折れた横笛の中から、小さく丸めた紙が出てきました。
二人がそれを広げると、そこには太郎の死んだお母さんの似顔絵が描かれていました。
太郎は新しいお母さんがいない時にその似顔絵を横笛から取り出しては、やさしいお母さんのいない悲しみをこらえていたのでした。
次の日、横笛が折られた事を知った太郎は、お母さんの似顔絵を懐に持ったまま家を飛び出してお母さんのお墓へ行きました。
「母ちゃん、おら、もうすぐ母ちゃんの所へ行くから、待っていてくれ」
その日から太郎は何も食べようとはせず、やがてやせ衰えて死んでしまったのでした。
この時初めて、新しいお母さんも次郎も三郎も、
「悪かった、悪かった」
と、心の底から泣いて謝ったのでした。
その後、太郎はお母さんの似顔絵と折れた横笛と一緒に、大好きなお母さんのお墓に埋められたのでした。
おしまい
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