2011年 10月17日の新作昔話
ほら吹き男爵 外套になった狂犬
ビュルガーの童話
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、「ほらふき男爵」とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
これは去年の冬の話だが、ペテルブルグのせまい横町で狂犬に追いかけられた時は、生きた気がしなかったぞ。
むろん町中だから、鉄砲など持ち合わせていない。
なに? いつかのオオカミの様に、口にこぶしを突っ込んで、裏返しにしたらどうかだって?
とんでもない。
こんな町中であんな事をすれば、ご婦人たちに嫌われてしまうではないか。
そこでわがはいは、逃げる事にしたのだ。
とは言っても、ただ逃げただけでは追いかけられるので、わがはいはコートを脱ぐと、それを狂犬に投げつけてやった。
そして狂犬がコートに気を取られている間に、わがはいはやっとの事で、わが家へと駆け込んだのだ。
そしてコートは、後で下男に拾ってこさせ、ほかの洋服と一緒に洋服だんすの中にかけさせた。
さて、あくる日の事だ。
「大変です、だんなさま。コートが、暴れまわっています」
下男のけたたましい声に驚いて行ってみると、なるほど、昨日のコートが暴れ狂って、わがはいの服を残らず、ずたずたに引きちぎっている。
「なんとも、不思議な事があるものだ」
あっけに取られたとたん、コートの下からあの狂犬が首を出して、
ウーッ!
と、うなったのだ。
理由がわかれば、なんなんの事はない。
狂犬がコートにくるまっているのを下男が知らずにそのまま拾ってきて、洋服だんすにしまいこんだというわけだ。
もちろん狂犬はすぐにやっつけたが、そそっかしい下男のおかげで、多くの服がボロボロになってしまったぞ。
服をたんすにしまう時は、服をよく確かめてからしまおう。
これが、今日の教訓だ。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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