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2011年 11月21日の新作昔話

竜宮の酒

竜宮の酒
群馬県の民話

 むかしむかし、ある男が友だちと山を歩いていると、揺動ヶ淵というところでナタを落としてしまいました。
「しまった! 大事な仕事道具を!」
 男はナタを追って、あわてて淵に飛び込みました。
 するといきなり冷たい水に飛び込んでしまったために手足が動かなくなり、男はそのまま沈んでしまいました。
(このままでは、死んでしまう)
 男がそう思った瞬間、目の前がパッと明るくなり、水の底に立派なご殿が現れたのです。
「こんな所に、なぜこんな物が?」
 男がびっくりしていると、ご殿の中から女の人が現れて言いました。
「ここは、竜宮です。せっかく来られたのですから、ゆっくり遊んでお行きなさい」
 そして女の人は、とてもおいしいお酒やごちそうをたくさん出してくれました。
 こうして男は竜宮で三時間ほど楽しく過ごし、大切なナタを返してもらうと元の淵のほとりに戻ってきました。
 しかし一緒にいたはずの友だちがいなかったので、先に帰ったと思って村へ戻ってみると、何と自分の家で誰かのお葬式をしているのです。
「まさか、おっかあが!」
 男があわてて家に飛び込むと母親は無事で、お葬式は自分のお葬式だったのです。
 男は竜宮で三時間過ごしただけなのに、地上ではすでに三日もたっており、てっきりおぼれ死んだと思った村人たちが男のお葬式をあげていたのでした。

 それから男は元気に暮らし、八十歳まで長生きをしましたが、そろそろ寿命が尽きる頃になると、若い頃に竜宮で飲んだお酒の事をふと思い出しました。
「ああ、もう一度、最後にもう一度、竜宮の酒が飲みてえなあ」
「竜宮の酒を?」
「そうだ。もう一度、竜宮の酒が飲めれば、もう思い残す事はない」
 そこで孫たちが泉龍寺の和尚さんに相談すると、和尚さんは空のひょうたんを淵に浮かべて言いました。
「竜宮の者よ。
 以前、そこへ行った男が、この世の最後に竜宮の酒を飲みたがっておる。
 どうか男の願いを、かなえてやってくれ」
 すると水に浮いていたひょうたんが沈んでいき、しばらくすると浮かび上がったのです。
 和尚さんがひょうたんをひろい上げると、中にはお酒が入っていました。
 こうして竜宮のお酒を手に入れた孫たちが、男に竜宮のお酒を手渡すと、男は満足そうにそれを飲み干して、
「ああっ、確かに竜宮の酒だ。これでもう、思い残す事はない」
と、安らかに死んでいったそうです。

おしまい

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