2011年 12月14日の新作昔話
ほら吹き男爵 赤ちゃんの実
ビュルガーの童話
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、月世界での話を聞かせてやろう。
さて、地球式のやり方で、口で食事をすませたわがはいは、王宮の庭に出かけると不思議な物を見つけた。
高さが三十メートルもある大きな木に、オレンジ色の果物のような実がいくつもなっているのだが、問題はそこに立っている立て札だ。
そこには《王者のなる木》と、書いてあるではないか。
するとそこへ産婆さんらしい年とったおばさんがやってきて、一番熟している実を一つもいで、さっさと王宮に入っていった。
「あの実を、どうするのだろう?」
わがはいは大いに興味を持って、あとに続いた。
そんな事とは知らないおばさんは王宮の一室に入ると、用意されていた、ぐらぐら煮え立っている大きなかまの湯の中に、さっきの実を放り込んだ。
とたんに、
バーン!
と、実のからがはじけたと思うと、
「オギャアー、オギャアー」
と、実の中から、赤ん坊が飛び出したではないか。
まあ、赤ん坊と言っても、その身長は三メートルもあったが。
そして赤ん坊の大きな泣き声に、王さまがあわてて飛び込んでくると、
「おめでとうございます。立派な王子さまが誕生されました」
と、産婆のおばさんは、うやうやしく赤ん坊を差し出した。
「おおっ、わしにそっくりだ」
王さまは、踊り上がって喜んだ。
木の実から赤ん坊が生まれてくるなんて、まったく不思議な話だ。
いや、地球でも世界の果てにある島国では、桃から生まれた子どもの冒険話があるそうだから、まあ、不思議とは言えないか。
その夜は王宮をあげての盛大なお祝いの会が開かれ、とっておきのごちそうやら、うまいブドウ酒もたくさん出た。
もちろん、わがはいたちも招待されたが、ここは丁重に遠慮をした。
何しろ、我々にはお腹のファスナーで食事をする芸当は出来ないし、それに下手をして、こっちのお腹にファスナーでもつけられたら大変だからだ。
そこで逃げ出すように王宮を出て、夜の散歩としゃれこんだわけだが、よく見るとあっちこっちで人間のなる木があった。
それらの木には、全て立て札があり、
《芸術家のなる木》
《金持ちのなる木》
《実業家のなる木》
《料理人のなる木》
《学者のなる木》
などなど。
中には《貧乏人のなる木》などもあったが、《冒険家のなる木》はどこを探してもなかった。
そうすると、この月世界には冒険家が生まれないことになる。
なるほど、わがはいが歓迎されるわけだ。
それにしてもこの月世界では、人は生まれながらに運命が決まっているらしい。
だが地球では、生まれながらの運命などない。
きみたちもがんばれば、わがはいのような冒険家にも、おじのような大金持ちにも、何にでもなる事が出来るのだ。
これを、今日の教訓としておこう。
月世界話の話しは、まだまだ続くぞ。
続きは、また今度してやろうな。
おしまい
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