2011年 12月16日の新作昔話
ほら吹き男爵 月世界の住民の体
ビュルガーの童話
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、月世界での冒険話を聞かせてやろう。
わがはいが夜の散歩から王宮に帰ってきた時には、もうパーティーは終わっていた。
わがはいは、すぐに部屋に帰ってベッドにもぐり込み、窓から見える美しい地球をぼんやりとながめていた。
すると、
「男爵どの、お休みかな?」
と、いう王さまの声がした。
「いや、まだ起きていますよ」
そう言って顔を上げたわがはいは、
「ひゃーっ、幽霊だー!」
と、ベッドから転げ落ちてしまった。
なんと暗やみの中に、王さまの首だけが浮いていたのだ。
「いやあ、おどろかせてすまん、すまん」
王さまの首が、わがはいにあやまった。
「なれぬ月世界で、きみが眠れないんじゃないかと思って、様子を見にきたのだ」
「あっ、それはどうも。・・・して、胴体や手足は?」
わがはいが、震えた声でたずねると、
「ああ、これかね」
と、王さまの首がにっこり笑った。
笑わなくてもいい、よけいに気味が悪いから。
「わしの胴体や手足なら、ちゃんと、わしの部屋に休ませてある。
月世界の住民は、首だけでどこにでも行けるのだ。
体のどの部分でも、取りはずしが自由に出来るからね。
だから首だけを休ませて、胴体と足だけでも外出が出来るのだ」
「ああ、なるほど。それは、便利なものですね」
「そうとも。
たとえば、きみが月世界の住民だとして、いそがしくて散髪に行けないとする。
その時は、頭だけ床屋にあずけておいて働き、夕方になって床屋へ散髪の出来た頭を取りに行けばいいわけだ。
そのほかにも・・・」
王さまは得意になって話を続けようとするが、宙に浮いている生首と話すのは、正直良い気持ちではない。
わがはいは、気分が悪くなって、
「王さま、そろそろ寝ますので、そのお話はいずれ」
と、帰ってもらった。
そう言えば地球にも、首のない騎士の話があったな。
あれはもしかすると、月世界の住人かもしれない。
さて、わがはいもそろそろ、本当に眠くなってきた。
冒険家にとって大切なのは、どんな環境でもよく眠れる事だ。
寝不足での冒険は、命取りだからな。
『夜ふかしをせずに、よく寝る事』
これを、今日の教訓としておこう。
では、次はいよいよ月世界話の最終回だ。
楽しみにな。
おしまい
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