2012年 1月9日の新作昔話
キツネの恩返し
山形県の民話
むかしむかし、ある村に、一人の貧乏な若者がいました。
ある日の事、若者が町へ買い物に出かけようとすると、途中の道で子どもたちがキツネをいじめていたのです。
「これこれ、可愛そうな事をするんじゃない」
若者はキツネを子どもたちから買い取って、そのまま山へ逃がしてやりました。
「もう、子どもたちに捕まるんじゃないぞ」
そしてお金がなくなった若者は買い物をする事が出来ず、そのまま家に引き返しました。
若者が家に帰るとすぐに、誰かが家の戸を叩きました。
「こんにちは。こんにちは」
「おや? 誰だろう?」
若者が戸を開けると、そこには若くてきれいな娘さんが立っていたのです。
娘は若者にぺこりと頭を下げると、こう言いました。
「先ほどは、ありがとうございました。お礼に、恩返しに来ました」
「はて? お礼と言われても、おれは何もしていないぞ。ほかの家と、間違えたのではないですか?」
「いいえ、わたしを助けてくれたのは、あなたです。わたしは先ほど、あなたに助けていただいたキツネです」
「キツネ!?」
そう言われると、娘さんの目元はキツネにそっくりです。
「そうか、あの時のキツネか。しかし、お礼なんていいから、誰にも捕まらないうちに早くお帰り」
「はい。お礼したら、すぐに帰ります。わたしは今から馬に化けますから、わたしを町の馬市に連れて行って、お金にしてください」
娘さんはそう言うと、くるりととんぼ返りをして美しい馬に化けました。
そしてキツネが化けた馬は、早く自分を町へ売りに行けと若者をせかします。
若者は仕方なく、その馬を連れて町の馬市へと向かいました。
馬市へ着くとさっそく、一人の馬買いがやって来て言いました。
「ほう、なかなか見事な馬だ。売るつもりなら、高く買ってやるよ」
こうして若者は馬を売ると、たくさんのお金をもらったのです。
そして、そのお金で無事に買い物をすませた若者が家に帰ると、さっきのキツネが化けた娘さんが、また家の戸を叩いたのです。
「あれ? お前は馬になって、馬買いと一緒に行ったんじゃないのか?」
「すぐに、逃げてきました。あの馬買いは馬をたくさん持っているので、一匹ぐらい逃げたってわかりません。それより、もう一つ恩返しをさせて下さい」
「いや、もう恩返しはしてもらった。さっきので十分だよ」
「いいえ。キツネの決まりで、受けた恩は二倍にして返さないといけないのです」
そしてキツネは、こんな話をしました。
「実は町の長者が病気なのですが、その長者がまもなく死んでしまうのです。
わたしが今から『生き針』という、死んだ者を生き返らせる針に化けますから、あなたは針医者だと言って長者の家に行き、わたしが化けた針で死んだ長者の足の裏を刺して下さい。
そうすれば、長者は生き返るでしょう」
そこで若者はキツネが化けた『生き針』を持って、長者の屋敷へと向かいました。
すると長者はすでに死んでいて、家の者は悲しみながら長者のお葬式の準備を始めていたのです。
「あの、すみません。
おれは、旅の針医者です。
おれは死んだ者を生き返らせる、『生き針』を持っています」
すると家の者は、わらにもすがる思いで若者に頼みました。
「お願いします。どうか旦那さまを、生き返らせて下さい」
そこで若者は死んだ長者の所へ行くと、キツネに言われたようにキツネの化けた『生き針』を長者の足の裏にチクリと刺しました。
すると死んだはずの長者が、本当に生き返ったのです。
おまけに長者の病気も、すっかり治っていました。
その後、若者は長者からもらったお礼の千両箱で、何不自由なく幸せに暮らす事が出来ました。
おしまい