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2012年 3月23日の新作昔話

桃の汁

桃の汁
岡山県の民話

 むかしむかし、山へしば狩りに行ったおじいさんは水筒を家に忘れたので、のどがカラカラに渇いてしまいました。
「あー、どこかに水はねえかな」
 おじいさんが辺りをキョロキョロと探していると、向こうに一本の桃の木があって、おいしそうな桃の実がたくさん実っていたのです。
「こいつは、助かった。さっそく、桃を頂こう」
 おじいさんがその桃を一かじりすると、不思議なほど力がわいてきました。
 おかげでしば狩りもすぐに終わり、おじいさんは軽い足取りで家に帰りました。
「ばあさま、ばあさま。今、帰ったぞ」
「はい、お帰りなさ・・・・・・」
 おばあさんはおじいさんを見て、不思議な顔をします。
「あなたさまは、どこのどなたさまですかの?」
「ああ? 何を言うておる。わしじゃ、じいさまじゃ」
 それを聞いて、おばあさんはびっくりです。
 そう言われれば確かに、目の前にいるのは、おばあさんがお嫁に行った頃の若いおじいさんでした。
「あれ、じいさまが、むかしのじいさまになってしもうた」
「むかしの?」
 そこでおじいさんが水がめの水に自分の姿を写してみると、おばあさんの言うように若い頃の自分がいたのです。
「これは、たまげた。さては、あの桃は若返りの桃じゃったか」
「若返り?!」
 おじいさんから桃の話を聞いたおばあさんは、目を輝かせて言いました。
「そんな結構な桃があるなら、わたしも行って食べてきますで」

 おじいさんに教えてもらった場所へ行ってみると、確かにおいしそうな桃がたくさん実っています。
「これが、若返りの桃か」
 おばあさんはその桃をもいで、さっそく一かじりしてみました。
 すると急に元気が出てきて、体のしわがみるみる消えていったのです。
「若返った! 若返ったよ!」
 喜んだおばあさんは、夢中で桃を食べました。

 さて、家でおばあさんの帰りを待っていたおじいさんは、おばあさんがいつまでたっても帰って来ないので心配になりました。
「ばあさま、どうしたんじゃろう? 道でも、迷ったかな?」
 そこでおじいさんは、おばあさんを迎えに行きました。
「おーい、ばあさま! どこへ行ったんじゃ?」
 すると、桃の木の下で、
「おんぎゃー、おんぎゃー」
と、可愛い女の赤ちゃんが泣いていたのです。
 それを見て、おじいさんは全てをさとりました。
「やれやれ、ばあさまのやつ、欲張りおって」
 おじいさんは仕方なく、赤ちゃんになったおばあさんを抱いて帰りました。

おしまい

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