2012年 3月30日の新作昔話
不思議なとっくり
東京都の民話
むかしむかし、おかみさんが買い物を終えて家の近くまで帰って来ると、近くの小川からとてもいいにおいが立ちのぼってきました。
それは、あまいお酒のにおいでした。
「ふん。また、うちの人が、お酒を飲みながら居眠りをしているんだね。・・・まったく、困ったもんだ」
隣近所の旦那(だんな)たちは、道のわきで将棋をしながら真っ赤な顔をしています。
旦那たちはおかみさんの顔を見ると、みんなおじぎして言いました。
「ごちそうになっています。まったく、いつもうまい酒で」
そして小川の水を茶わんでくみ上げると、うまそうに飲みました。
「ただいま」
おかみさんが家の戸を開けると、お酒がどっと、あふれ出てきました。
そのお酒は二階の階段からは滝の様に、
ザー、ザー、ザー、ザー、
と、流れ落ち、家具がお酒にプカプカと浮かんでいます。
「あんたー、いい加減に、目をお覚ましよ!」
おかみさんは二階に声をかけると、流れるお酒をかきわけて二階へ登って行きました。
二階では亭主が、半分お酒に浮きながら真っ赤な顔で寝ています。
その亭主のまくら元には、とっくりが一本転がっていて、そのとっくりの口からお酒があふれ出ているのです。
「ほら、また、とっくりをひっくり返したまま寝て」
おかみさんがとっくりを立てると、不思議な事に滝の様に流れていたお酒がピタッと消えてしまいました。
そしてプカプカと浮いていた家具が、元のところへスーッとおさまったという事です。
おしまい