2012年 4月30日の新作昔話
段右衛門(だんえもん)のとんち
鹿児島県の民話
むかしむかし、徳留段右衛門(とくとめだんえもん)という、とんちのきく侍がいました。
ある日の事、用事で鹿児島の町まで出かけた段右衛門は、びんつけ(→整髪料)屋の前を通りかかりました。
店にならんだ黄色のびんつけ油を見た段右衛門は、ちょっぴりいたずらを思いついたのです。
「おい、びんつけ屋。この黄色い物は、なんともうまそうではないか。二、三升ゆずってくれんか」
「えっ? 二、三升もですか?!」
「おや? 何かまずいのか?」
「いえいえ。そんなに買ってもらえるのなら、たんとおまけをさしあげますで」
大量の注文に、すっかり気をよくした店の主人は笑顔で答えました。
すると、段右衛門は、
「それでは、そのおまけの分を先に食べてみるとするか。さあ、この手につけてくれんか」
と、言って、両手を出しました。
「へいへい。どうぞ、たんと食べてください」
店の主人が両手にたっぷりと、びんつけ油をつけてやったところ、
「ほほーっ。なんともうまそうじゃ。いただきまー・・・。ああっ、だが残念な事に、武士の立食いは固く禁じられておる。どうしたものか・・・。そうだ、宿屋に戻ってから食べてみよう」
と、言って、さっさと行ってしまった。
しばらくしてから店の主人は、
「・・・ああっ! 代金代金!」
と、あわてて追いかけましたが、もう段右衛門の姿はどこにもありませんでした。
おしまい