2012年 6月8日の新作昔話
生類憐みの令「ツバメを殺した罰」
東京都の民話
むかし、江戸幕府五代将軍綱吉が、
《生き物の命を、あわれんでやらねばならない。むやみに殺した者は、重く罰する》
と、いう内容の『生類あわれみの礼』という、ひどい法律を作ったことがありました。
この法律のおかげで、犬やネコをいじめるのはもちろんの事、魚を食べても虫を殺しても罪になるのです。
さて、江戸城につとめる役人の家来に、只越甚太夫(ただこしじんだゆう)という男がいました。
この甚太夫には、五歳になる男の子がいるのですが、かわいそうな事に生まれた時からの病気で体が弱く、どんな医者に診せても治らないのです。
ある日の事、甚太夫は知り合いから、
「その病は、ツバメの肝を食べればすぐによくなる」
と、教えられました。
喜んだ甚太夫は、さっそく仲間の兵衛(ひょうえ)をさそって吹き矢をつくり、家の前に飛んでくるツバメを吹き落としたのです。
ところが運悪く、ツバメを殺すところを見られてしまった甚太夫は、生類憐みの令の為に罪人として役人に捕らえられ、死刑になってしまったのです。
そして仲間の兵衛は、八丈島(はちじょうじま)へと島流しにされたのです。
いつもなら、いくらなんでも死刑になる事はなかったのですが、甚太夫の場合、間の悪い事にツバメを殺した日が、前の将軍が亡くなった月の命日にあたっていたのです。
「月命日に殺生をするとは、重ね重ねの悪事である」
と、いう理由で、かわいそうにも死刑にされたのです。
ほかにも江戸の町では、
・子どもを襲った野良犬を追い払うときに、うっかり野良犬を叩いてしまった罪。
・ボウフラ(→蚊の幼虫)の入った桶の水で水まきをして、ボウフラを殺した罪。
と、いう、普通では考えられないような罪で、毎日のように、だれかが役人に連れて行かれたという事です。
おしまい