2012年 7月9日の新作昔話
魂を抜かれた坊さんたち
むかしむかし、ある侍が殿さまのいいつけにそむいたため、お寺の庭で切腹をさせられました。
侍のなきがらは、立派な棺におさめられて、一晩、本堂におかれることになりました。
お葬式は明日です。
本堂に、お寺で一番えらい坊さんがやってくると、棺に手をあわせました。
「こんな事になるとは思わなかった。まよわず、あの世へいってください」
実は、この坊さんの悪口がもとで、侍は切腹させられたのです。
坊さんは弟子の坊さんたちとともに、棺を囲んで、夜通し見守ることにしました。
さて、その晩、夜がふけるにつれて、十人あまりの坊さんが、急に、いねむりをはじめました。
棺の前で十人余りの坊さんがいねむりするなんて、ただごとではありません。
二人の小坊主が、ねむいのをがまんして、やっと目を開けていると、棺がガタガタとゆれだしました。
「ひぇーーっ!」
二人の小坊主が腰を抜かしていると、棺のふたがゆっくりと開いて、中から切腹した侍が出てきたのです。
侍は、うらみでつりあがった目で坊さんたちをにらみまわしてから、ろうそくのあかりの火を、こよりひもにとりました。
そして一番えらい坊さんから順に、その火のついたこよりひもを鼻の穴に押し入れて、魂を抜き取っていったのです。
魂を抜き取られた坊さんたちは、次々と倒れて死んでいきます。
もうすぐ、二人の小坊主の晩です。
二人の小坊主は、恐ろしさの余り声も出ません。
でも、何とか力を振り絞って廊下に逃げ出すと、寺男たちに助けを求めました。
「なに! 棺の死体が生き返っただと!」
寺男たちが駆けつけてみると、棺には何の変わりもありません。
侍のなきがらは、ちゃんと棺におさまっていました。
けれど、倒れていた坊さんたちは、一人残らず死んでいたということです。
おしまい