2012年 8月24日の新作昔話
玉虫の涙雨
山形県の民話
むかしむかし、あるお城に働く女中に、玉虫という名前の美しい娘がいました。
玉虫は美しいだけでなく、とても心やさしい娘で、おまけに朝から晩までとてもまじめに働くのです。
また、玉虫はご飯を炊くのがとても上手で、殿さまは玉虫の炊いたごはんしか食べないほどでした。
そんなある日、女中仲間の娘が玉虫に意地悪をしてやろうと、ごはんを炊いている玉虫にこう言ったのです。
「玉虫さん。さきほど、女中頭が玉虫さんを探していましたよ」
「あら、何かしら?」
そして玉虫が女中頭を探しに出かけた隙に、女中仲間の娘は、玉虫が炊いているご飯の中に小さなヘビを入れたのでした。
さて、それから玉虫の炊いたご飯はおひつに移されて、お殿さまが食べるお茶碗にご飯が盛られたのですが、それを食べていた殿さまは、ご飯の中から小さなヘビが出て来たのでびっくりです。
そして怒った家来たちにひどく責められた玉虫は、その日の晩に城を抜け出して、山の中の沼に身を投げてしまったのです。
それは満月が美しい、八月十三日の事でした。
そしてそれから、この辺りでは毎年八月十三日になると、必ず雨が降りました。
人々は、玉虫の涙が雨となって降っていると考え、この日に降る雨を『玉虫の涙雨』と呼んだそうです。
おしまい