2012年 11月5日の新作昔話
甚兵衛(じんべえ)とキノコ
福井県の民話
むかしむかし、ある村に甚兵衛という炭焼きがいて、毎日、夜が明けないうちから町へ炭を売りに行っていました。
途中、峠で一服するのですが、あたりに生えているキノコたちは、どれもまだぐうぐう眠っています。
ところが、ある日、甚兵衛がめずらしく昼頃峠を通ると、いつも眠っているキノコたちがどんちゃんさわぎをしていたのです。
見ているうちに、いつの間にか仲間入りをしてすっかり仲よくなった甚兵衛が、何気なしに、キノコに一番キライなものをたずねますと、
「おらたちキノコは、みそ汁が嫌いだ」
と、答えます。
そして今度は、キノコの方が同じ問いをかえしてきましたので、甚兵衛はからかうつもりで、
「小判が何より嫌いだ」
と、言ってやりました。
そのうちに日もとっぷりと暮れてきたので、甚兵衛はキノコたちに別れを告げると、家に帰りました。
夜になって、ひょいと昼間のキノコの話を思い出した甚兵衛は、おかみさんに、八升なべいっぱいのみそ汁を用意しておくようにと言いつけました。
翌朝、おかみさんがわけのわからないままに、八升のみそ汁をたくと、甚兵衛はそのみそ汁をおけに入れて、キノコたちの眠っている峠へと出かけました。
そして、いきなりキノコたちの上に、パサーッと熱いみそ汁をかけたのです。
甚兵衛の方は、軽くからかってやろうと思っただけだったのですが、やられたキノコはカンカンです。
怒り狂ったキノコたちは、いっせいに甚兵衛の家へおしかけました。
そして、戸をけやぶって家の中に入ると、ふとんをかぶって眠ったふりをしている甚兵衛の上に、
「こいつは、みそ汁のお返しだ!」
と、大嫌いだと言っていた小判を投げつけたのです。
キラキラと光る小判の山が、すっかり甚兵衛をおおってしまうと、やっと気がすんだのか、キノコたちは列をなして峠へと帰っていきました。
おしまい