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2012年 11月9日の新作昔話

シイの実で鬼を追い出したおじいさん

シイの実で鬼を追い出したおじいさん
埼玉県の民話

 むかしむかし、おじいさんが山でしばかりをしていると、あたりがだんだん暗くなってきました。
「しまった。早く帰らなくては、日が暮れてしまう」
 おじいさんがあわてて帰ろうとすると、道にシイの実が三つ転がっていました。
 その実がとても可愛いので、おじいさんはそれをふところに入れると、山を下って行きましたが、途中で日が暮れてしまいました。
「仕方がない。今夜はここで泊まることにしよう」
 近くに古いお堂があったので、おじいさんはそこで寝ることにしました。
 さて、真夜中の事、突然お堂のまん中からすごい音がしたので、おじいさんはあわてて目を覚ましました。
 すると驚いたことに大勢の鬼たちが集まって、金棒でお堂のまん中をどんどん叩いているのです。
 そして鬼たちは、叩きながらこう歌いました。
♪お金出ろ! お金出ろ!
♪たんとでろ!
♪酒出ろ! 酒出ろ!
♪たんとでろ!
 すると不思議なことに、金棒を叩いた床から、小判やお酒がどんどん出てくるのです。
 そして出てきたお酒で、鬼たちは宴会を始めました。
 おじいさんは隙を見て逃げようとしますが、怖さに足が震えて逃げるに逃げられません。
 やがてその震える音に気づいた一匹の鬼が、ふと、おじいさんの隠れている方へ目を向けたのです。
「おや? 何かいるのか?」
 鬼がこっちに歩いてこようとしたので、おじいさんは、ふところにあったシイの実を口に入れて、思わずカチリとかみ砕きました。
 すると鬼たちはびっくりして、顔を見合わせました。
「なんだ、いまの音は?」
 そこでおじいさんは、残りのシイの実を口に入れると、カチリ、カチリとかみ砕きました。
「やや、これは、お堂が壊れる音に違いない。早く逃げろ」
 鬼たちは大あわてで、お堂を飛び出していきました。
 次の朝、おじいさんは床に散らばっていた小判をかき集めると、大喜びで家に帰って行ったのです。

 さて、この話を聞いたとなりの欲張りじいさんは、さっそくシイの実をたくさん拾うと、鬼がやってくるお堂に隠れました。
 そして夜中に集まって鬼が集まり、
♪お金出ろ! お金出ろ!
♪たんとでろ!
♪酒出ろ! 酒出ろ!
♪たんとでろ!
と、やっている所に、シイの実をカチリとかみ砕いたのです。
 すると、鬼たちは怖い顔で振り向くと、こう言いました。
「さては、夕べ、おれたちの金を盗んだ奴が、またやって来たのだな! 鬼から金を盗むとは、とんでもない奴だ!」
 こうして鬼たちに見つかった欲張りじいさんは、鬼たちにメチャクチャに殴られ、命からがら逃げ出したという事です。

おしまい

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