2013年 1月18日の新作昔話
栗子姫
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日の事、おばあさんが山へ栗拾いに行きましたが、栗は一つも落ちていません。
あきらめて帰ろうとすると、たった一つだけ、大きくて立派な栗が転がっていたのです。
「まあ、何と立派な栗だこと」
おばあさんは栗を持って帰ると、おじいさんと一緒に栗を食べようとしました。
すると栗は一人でに割れて、中から小さな小さな女の子が出てきたのです。
おじいさんもおばあさんも、びっくりです。
「竹や瓜から女の子が出てくる話は聞いた事があるが、まさか栗からも女の子が出てくるとは」
「おじいさん。わたしたちには子どもがいないから、この娘を栗子姫と名付けて、わたしたちの子どもにしましょうよ」
こうしておじいさんとおばあさんは、栗子姫を自分の娘として大切に育てることにしました。
最初は手のひらの乗るほどの小さな栗子姫でしたが、栗子姫はご飯を食べれば食べた分だけどんどん大きくなり、一年もすると年頃の美しい娘に育ちました。
年頃になった栗子姫があまりにも美しいので、噂を聞いた隣村の長者が息子の嫁に欲しいと言ってきました。
とてもいい縁談なので、おじいさんはおばあさんは大喜びです。
さて、この栗子姫の嫁入り話は、栗子姫の栗が落ちていた山に住む山姥の耳にも届きました。
「あの娘は、わしの山で拾った栗から産まれた娘。
言ってみれば、わしの娘も同じじゃ。
それなのに、娘だけが長者の嫁になって幸せになるとは面白くないわ」
そこで山姥は村の娘に化けて、言葉巧みに栗子姫を山へ連れ出したのです。
「栗子姫。お嫁に行ったら、この村の景色はもう見られないわ。わたしと一緒に山へ行って、村の景色をよく見ておきなさい」
そして山姥は山のてっぺんで正体を現すと、
「お前の代わりに、わしが長者の嫁に行ってやるわ」
と、栗子姫を松の木に縛り付けてしまったのです。
栗子姫に化けた山姥は家に帰ると、おばあさんにきれいな着物を着せられて、おじいさんの引く馬に乗って隣村へ通じる山道を進みました。
するとそこへたくさんのトンビたちが飛んできて、こう鳴き出したのです。
♪栗子姫乗せず、山姥乗せてどこへ行く。ピーヒョロロー
♪栗子姫乗せず、山姥乗せてどこへ行く。ピーヒョロロー
それを聞いた馬が突然暴れだし、馬から落ちた山姥は落ちた痛みに山姥の正体を現すと、あわててどこかへ逃げてしまいました。
そしてトンビたちは隣村の長者の家に飛んで行くと、こう鳴き出したのです。
♪お嫁の栗子姫は山の中、山姥に縛られて泣いている。ピーヒョロロー
♪お嫁の栗子姫は山の中、山姥に縛られて泣いている。ピーヒョロロー
それを聞いた婿が山へ行ってみると、栗子姫が松の木に縛られて泣いているのでした。
婿は栗子姫を助け出すと、二人して山を下りて行きました。
するとまたトンビたちが飛んできて、こう鳴き出したのです。
♪茅の中に山姥いるよ、栗子姫狙って隠れている。ピーヒョロロー
♪茅の中に山姥いるよ、栗子姫狙って隠れている。ピーヒョロロー
そこで婿が腰の刀を抜くと、茅を切り払いました。
「うぎゃー!」
刀で切られた山姥が叫び声をあげながら逃げていきました。
茅の根元が赤いのは、この時に山姥が流した血を吸ったせいだと言われています。
こうして栗子姫は無事に嫁入りをして、幸せに暮らしたということです。
おしまい
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