夏の怖い話し特集
2013年 8月19日の新作昔話
ぼたもちの化け物
新潟県の怖い民話
むかしむかし、越後の国(えちごのくに→新潟県)の新庄村(しんじょうむら)の百姓が、台所にいる奥さんに声をかけました。
「おーい、かかあや」
すると台所ではなく、床下から声がしました。
『おーい、かかあや』
百姓は、首をかしげて言いました。
「なぜ床下から? 妙な事もあるもんじゃ」
するとまたもや、床下から声がしました。
『なぜ床下から? 妙な事もあるもんじゃ』
百姓は、また首を傾げました。
(誰が床下でおらの口真似を?)
百姓は床板を取って下を覗いてみましたが、床下には誰もいません。
(おかしな事もあるもんじゃ)
百姓は床板を元通りにふさいで言いました。
「気味が悪いな。今夜は、早く寝るか」
するとまた床下から口真似が聞こえます。
『気味が悪いな。今夜は、早く寝るか』
次の朝、百姓は近所の人に昨日の事を話しました。
するとその夜、うわさを聞いた若者たちが百姓の家に集まって来たのです。
床下の声は百姓だけでなく、集まった若者たちが試してみても口真似をします。
若者たちが床下を調べてみても、やはり何もいません。
そこで一人の若者が、床下に向かってこう言いました。
「口真似だけなら、カラスでも出来るわ。知恵のあるものなら、正体をあかせ。お前は、古ダヌキじゃろう」
すると床下から、返事が返ってきました。
『古ダヌキじゃないわい』
「それなら、キツネか?」
『キツネじゃないわい』
「ネコか?」
『ネコじゃないわい』
若者は楽しくなって、次々と尋ねました。
「イタチか?」
「カッパか?」
「天狗か?」
しかし、いくら言っても正体が当たりません。
そこで、一人の男が冗談半分に言いました。
「お前の正体は、ぼたもちじゃろう」
すると床下から、驚いた様な声がしました。
『よく当てたな。確かにわしは、ぼたもちじゃ』
数日後、この『ぼたもちの化け物』の話が、殿さまの耳に届きました。
「我が城下に、怪しい事があってはならぬ。しかと正体を確かめてまいれ」
そこで大勢の役人が、百姓の家にやって来ました。
役人たちは座敷にあがると、床下に向かって言いました。
「これ、ぼたもち化け物、返事をいたせ」
『・・・』
「返事をいたせ」
『・・・』
「ぼたもち化け物。正体を現さぬか!」
『・・・』
「正体を現さぬと、刀で切りつけるぞ!」
『・・・』
役人は刀を抜いておどしましたが、何の声もありません。
翌朝になりました。
一晩中、床下に向かって言葉をかけた役人たちは、すっかり腹を立てて百姓の家を出て行きました。
「まったく、ありもせぬ事を言いふらしおって。とんだ迷惑じゃ!」
役人たちが帰ってしまうと、百姓がほっとして言いました。
「やれやれ、とんだ人騒がせじゃ」
すると、今まで一言もしゃべらなかった床下の声が言いました。
『全くじゃ、しゃべるとろくな事にならんから、もうしゃべるのは止めだ』
そしてそれっきり、床下の声は何も言わなくなってしまったそうです。
おしまい
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