3月6日の世界の昔話
イーダちゃんの花
アンデルセン童話 → 詳細
「きのうはあんなにきれいだったお花が、みんなしおれちゃったわ。ねえ、どうしてなの?」
小さいイーダは、学生さんにたずねました。
学生さんはいつもおもしろい話をしてくれるので、イーダは大好きでした。
「それはね、この花たちは夜中になると、みんなでダンスパーティーをするんだよ。それでおどり疲れて頭をたれているのさ」
「うそよ。花はダンスなんかできないわ」
イーダがいうと、学生さんが答えました。
「うそじゃない。あたりが暗くなって、人間たちが寝しずまってしまうと、花たちはおどり回るんだ。花びらをチョウチョウみたいにはばたかせて、お城までおどりに飛んでいったりもするのさ。お城では一番美しいバラの花が、王座にすわっているんだよ」
「そうか、花たちはおどりくたびれて、ぐったりしていたのね」
イーダはなっとくすると、その夜、花束をかかえておもちゃべやにいきました。
それから人形のソフィーをベッドからどかすと、花束をベッドの中に横たえ、上からふとんをかけてやりました。
その晩、イーダはなかなか寝付けません。
「あの花たち、今夜もダンスパーティーにでかけるのかしら。それともおとなしくソフィーのベッドで寝ているかしら。心配だわ」
すると、どこからかピアノの音が、かすかに聞こえはじめました。
「きっと、花たちのダンスが始まるんだわ」
イーダはじっとしていられなくなって、べッドからぬけ出すと、そっとおもちゃベやの中をのぞきました。
すると、へやの中はまどからさしこむ月明かりで昼のように明るく、そのただ中には、花たちが二列に並んでいるではありませんか。
やがて花たちは、たがいの葉をつなぎあって、輪をえがきながらおどりはじめます。
特に、ヒヤシンスとチューリップのダンスはすてきです。
ピアノをひいているのは、黄色いユリの花でした。
すると音楽につられて、引き出しの上に腰かけていた人形のソフィーまでもが、床に飛びおりると、おどりの輪の中にはいりはじめました。
「知らなかったわ。ソフィーちゃんも、お花のなかまだったなんて」
イーダちゃんは、おどろいてつぶやきました。
すると、広間のドアがさっとひらいて、たくさんの花たちがおどりながら入ってきました。
金のかんむりをかぶっている二本のバラの花が、花の王さまとおきさきさまです。
花の音楽隊が、エンドウ豆のラッパをふき鳴らします。
スミレ、スズラン、ヒナギク、サクラソウなども、みんな月明かりの下で一晩中おどりあかしました。
次の日の朝、イーダちゃんは目覚めるとすぐに花のところへ行きました。
花たちは昨日よりも、ずっとしおれていました。
イーダちゃんは、お人形のソフィーに話しかけました。
「あなた、わたしに何か、かくしていることはない?」
でもソフィーちゃんは、何も答えてくれませんでした。
「・・・まあいいわ。お花さん、またきれいに咲いてちょうだいね」
イーダちゃんはそう言って、しおれた花をにわのかだんにうえてやりました。
おしまい
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