8月6日の世界の昔話
イラスト myi
親指姫
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細
むかしむかし、一人ぼっちの女の人が、魔法使いにお願いしました。
「わたしには、子どもがいません。小さくてもかまわないので、可愛い女の子が欲しいのです」
すると魔法使いは、種を一粒くれました。
「これを育てれば、願いがかなうだろう」
女の人が種をまくと、たちまち芽が出てつぼみが一つふくらみました。
「まあ、何てきれいなつぼみでしょう」
女の人が思わずキスをすると、つぼみが開きました。
すると、どうでしょう。
そのつぼみの中に、小さな女の子が座っていたのです。
女の人は、その小さな女の子にキスをしました。
「はじめまして。あなたの名前は、親指姫よ」
女の人は小さな親指姫を、それはそれは大切に育てました。
親指姫はお皿のプールで泳ぎ、葉っぱの舟をこぎながらきれいな声で歌いました。
そして夜になると、クルミのからのベッドで眠ります。
おふとんは、花びらでした。
さて、ある晩の事です。
ヒキガエルのお母さんが、寝ている親指姫を見つけました。
「あら可愛い。息子のお嫁さんに、ちょうどいいわ。ゲロゲロ」
ヒキガエルのお母さんは親指姫を連れていくと、スイレンの葉っぱに乗せました。
「さあ、起きるんだよ。今日からお前は、わたしの息子のお嫁さんだよ。そしてこの沼が、お前の家さ。いいところだろ。息子を連れて来るから、ここにいるんだよ。ゲロゲロ」
ヒキガエルのお母さんは、そう言ってどこかへ行ってしまいました。
一人残された親指姫は、シクシクと泣き出しました。
「ヒキガエルのお嫁さんなんて、いやよ。ドロの沼も、きらいだわ」
すると、その声を聞いた魚たちが集まり、
「かわいそうに、あのヒキガエルお嫁さんだなんて」
「ねえ、逃がしてやろうよ」
と、スイレンのくきをかみ切ってくれました。
「ありがとう。魚さん」
くきを切られたスイレンの葉っぱは、水の流れに流れていきます。
親指姫は飛んでいたチョウチョウにお願いして、葉っぱを引っ張ってもらいました。
チョウチョウのおかげで、葉っぱはどんどん川を下っていきます。
するとそれを、コガネムシが見つけました。
「おや、珍しい虫がいるぞ」
コガネムシは親指姫を捕まえると、森の奥へと連れて行ってしまいました。
おかげで親指姫は、森の奥で一人暮らしです。
親指姫は花のミツを食ベて、草にたまったつゆを飲んで、葉っぱにくるまって眠ります。
やがて冬がきて、空から雪が降ってきました。
「ああ、何て寒いのかしら」
寒さに震えながら歩いていた親指姫は、野ネズミの家を見つけました。
「あの、寒さで困っています。どうか、中へ入れてくれませんか?」
親指姫が声をかけると、野ネズミのおばさんが出てきて言いました。
「おやおや、かわいそうに。さあ、中はあったかいし、食ベ物もたくさんあるよ。遠慮せずに、いつまでもいるといいよ」
こうして親指姫は、野ネズミのおばさんと一緒に暮らす事になりました。
さて、野ネズミの家のさらに地面の奥には、お金持ちのモグラが住んでいました。
「なんて可愛い娘だろう」
親指姫を気に入ったモグラは、毎日遊びにきます。
ある日の事、親指姫はけがをして倒れているツバメを見つけました。
やさしい親指姫は、毎日ツバメの世話をしました。
「どうか元気になって、もう一度歌って。わたし、あなたの歌が大好きよ」
春になり、すっかり元気になったツバメが親指姫に言いました。
「あなたのおかげで、また飛べるようになりました。さあ、一緒に南の国へ行きましょう。南の国は、とってもいいところですよ」
「ありがとう。でも、いけないわ」
「どうして?」
「だって、わたしがいなくなったら、お世話になった野ネズミのおばさんがさびしがります」
「・・・そうですか。では、さようなら」
ツバメは親指姫に礼を言うと、南の国へ飛んでいきました。
夏が来ると、野ネズミのおばさんが言いました。
「親指姫や、いい話ですよ。なんとお金持ちのモグラさんが、あなたをお嫁に欲しいんですって。よかったね、モグラさんに気に入ってもらって。秋になったら、モグラさんと結婚するのですよ」
親指姫は、ビックリしました。
モグラはきらいではありませんが、モグラと結婚したらずっと地面の底で暮らさなければなりません。
モグラは、お日さまも花も大きらいだからです。
夏の終りの日、親指姫は野原で言いました。
「さようなら、お日さま。さようなら、お花さんたち。わたしは地面の底に行って、もう二度とあなたたちに会えません」
親指姫は悲しくなって、泣き出しました。
その時、空の上から聞き覚えのある声が聞こえました。
「親指姫。お迎えに来ましたよ」
あの時助けたツバメが、飛んできたのです。
「聞きましたよ、モグラがあなたをお嫁さんにしたいと。さあ、今度こそ一緒に行きましょう」
「ええ、行きましょう」
ツバメは親指姫を背中に乗せて、大空を飛んでいきました。
何日も何日も南へ飛んで、着いたのは花の国です。
ツバメは花の上に、親指姫をおろしました。
花の上には、親指姫と同じくらいの大きさの男の子が立っていました。
「ようこそ、かわいい娘さん」
この男の子は、花の国の王子さまです。
「さあ、これをどうぞ」
王子さまは、親指姫の背中に羽をつけてくれました。
それから親指姫は、花の国の王子と結婚しました。
二人は花から花へと飛びまわりながら、いつまでも幸せに暮らしました。
おしまい
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