きょうの世界昔話
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8月12日の世界の昔話

チッコ・ペトリロ

チッコ・ペトリロ
イタリアの昔話 → 国情報

 むかしむかし、あるところに、娘が一人いる夫婦がすんでいました。
 そして、娘の結婚する日がやってきました。
 結婚式には、しんせきや知りあいの人たちをおおぜいまねきました。
 さて、教会での結婚式も無事にすんで、こんどは娘の自宅で、はなやかなお祝いのパーティーをひらくことになりました。
 ごちそうが山のようにならべられましたが、まだブドウ酒が出ていません。
 そこで父親が、娘の花よめにいいました。
「ブドウ酒がなくちゃ、どうにもならん。地下の酒ぐらにいって持っておいで」
「はーい」
 花よめは、酒ぐらにおりていきました。
 そして、ブドウ酒のビンをタルの下にあてて、せんをぬいて、ブドウ酒がビンにいっぱいになるのをまっていました。
 花よめはそのあいだ、ボンヤリと考えごとをはじめました。
「わたし、とうとう結婚したんだわ。これから九ヶ月もすると、息子が生まれるわ。名まえは、なんとつけようかしら? ・・・そう、チッコ・ペトリロにしましょう。服をきせ、くつ下をはかせ、かわいがって育てて。・・・でも、もし、かわいいチッコが死んだりしたらどうしましょう? ・・・ああ、かわいそうな子、どうして死んでしまったの!」
 花よめは、ワーッとなきだしました。
 タルのせんをあけっぱなしでしたから、ブドウ酒は、ザアーザアーと床にながれっぱなしです。
 テーブルについていたお客たちは、いつお酒がくるのかとまっていました。
 でも、いつまでたっても花よめはもどってきません。
「ちょっと、酒ぐらへいって見ておいで」
と、父親がおくさんにいいました。
「そうですね。ひょっとしたら、あの子はねむってしまったのかもしれませんね。小さいときから、酒ぐらでよくひるねをする子だったから」
 お母さんが酒ぐらにおりていくと、娘がオイオイとないています。
「まあっ! どうしたの? なにがおきたの?」
「ああ、お母さん。きょう、わたしは結婚したでしょう。そうすれば、九ヶ月あとには息子が生まれるわ。その子の名まえは、チッコ・ぺトリロにしようと思うの。だけどね、お母さん。もし、チッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて」
 娘はまたも、ワーッとなきだしました。
「ああ、かわいそうな、わたしの息子」
「ああ、かわいそうな、わたしの孫」
 娘とお母さんは、だきあってなきだしました。
 テーブルについていた人たちは、いくらまってもブドウ酒が出ないので、イライラしてきました。
「二人とも、なにをしているんだ? わしが見にいって、どやしつけてやろう!」
 父親は、酒ぐらにおりていきました。
 すると、妻と娘は足までブドウ酒につかりながら、だきあってないています。
「おい。なにがおきたんだ?」
「お父さん、きいてください。この子は、きょう結婚したでしょう。するとまもなく、息子が生まれますね。そこでわたしたち、チッコ・ペトリロって名まえをつけることにしたんです。でも、そのかわいいチッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて・・・」
「うん。もっともだ、もっともだ。・・・おお、なんてかわいそうなチッコ・ペトリロ」
 父親も、なきだしてしまいました。
 三人が、なかなかもどってこないので、
「ぼくが、見にいってきましょう」
 花むこはそういって、酒ぐらにおりていきました。
 すると三人は、足までブドウ酒につかりながらないているのです。
「いったい、どうなさったんです!」
「あなた!」
と、花よめがいいました。
「わたしたち結婚したんですから、息子ができるわね。わたしはその子に、チッコ・ペトリロと名まえをつけることにしたんです。でも、せっかく育ったチッコがもしも死んだらと思うと、かなしくてかなしくて。それでないているんです」
「はあ?」
 花むこは、じょうだんをいっているのだと思いました。
 ところが、本気でいっているのがわかると、三人にどなりました。
「あなたたち三人は、そろいもそろってなんてバカ者なんだ。みんなお酒が出るのをまっているじゃないか。いままでこんなバカ者ぞろいとは思ってもみなかった。バカバカしくて気がおかしくなる。こんなうちではとてもくらせない。そうだ、いっそ旅にでよう。妻よ。おまえの顔を見ずにいたら、ぼくの気もしずまるにちがいない。旅にでて、もし世間におまえよりもっとバカな者がいたら、もどってきていっしょにくらしてやる」
 花むこはさんざんののしって、酒ぐらを出ていきました。
 そしてふりかえりもせずに、旅にでていきました。
 旅にでた花むこは、ある川のたもとにつきました。
 すると小舟につんだ、はしばみ(→カバノキ科の落葉低木)の実を、大きな熊手(くまで)ですくいあげている人がいました。
 でも、はしばみの実は、熊手のすき間からこぼれ落ちてなかなかすくえません。
「もしもし。熊手で、なにをしているのですか?」
「ああ、さっきから何度もすくっているだが、ちっともすくいあげられないんだ」
「あたりまえですよ。なぜ、シャベルをつかわないんです?」
「シャベル? そうか、なるほどね。そいつは気がつかなかった」
(妻たちよりも、おバカな人が一人いた)
 しばらくいくと、川の水を小さなスプーンですくって、ウシにのませている人がいました。
「もしもし。そんな小さなスプーンで、なにをしているのですか?」
「ああ、さっきから三時間もやっているんだが、ウシののどのかわきが、なかなかとまらねえんだ」
「あたりまえですよ。なぜ、ウシにちょくせつ川の水をのませてやらないんです?」
「ちょくせつ? おおっ、それはいい考えだ」
(これで、おバカが二人目だ)
 花むこは、またあるきつづけました。
 すると、畑のくわの木のいただきに、ズボンを手にして立っている女の人がいました。
「もしもし。そんなところでなにをしているんです?」
「まあ、だんな、きいてくださいよ。夫がこのあいだ死んのですが、坊さんがいうにゃ、夫は天国へいったちゅうことです。そこでわたしゃ、もどってきたら、このズボンをはかそうと思ってまってるだよ」
(三人目のおバカだ)
 世間には、妻よりもバカな者が三人もいた。
 これでは、うちへかえったほうがよさそうだ。
 花むこはそう思って、うちへかえりました。
 この後、うまれた子どもにチッコ・ペトリコと名づけましたが、チッコ・ペトリコはとても長生きしたそうです。

おしまい

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