10月9日の世界の昔話
クジャクの舞
中国の昔話 → 国情報
むかしむかし、シプソンパンナというところに、わかい狩人(かりゅうど)がいました。
ある日のこと、山おくへドンドン歩いていくうちに、道にまよってしまいました。
ふと見ると、むこうに光る水面が見えました。
近よって見ると、しずかな湖でした。
そのとき、バタバタとはばたきの音がしました。
きれいなクジャクが、ぜんぶで七羽、岸辺におりてきました。
クジャクたちはきていたクジャクの羽衣(はごろも)を、さっとぬぎすてました。
すると中から、目のさめるような美しい娘たちがあらわれました。
娘たちは湖の中で、たのしそうに泳ぎはじめました。
水あびがすむと、また羽衣をつけて、湖の上を舞いました。
中でも、いちばん年下の娘は、とくべつ上手に舞いました。
狩人は、その娘が好きになりました。
けれどもそれは、ほんのひとときのことで、娘たちはまもなくクジャクのすがたにもどって、とんでいってしまったのです。
狩人はしばらくのあいだは、夢でも見ているような気がして、動くこともできませんでした。
あの、一番下の娘のことが、どうしてもわすれられません。
日がくれてゆくのもわすれて、狩人はジッと考えこんでいました。
「これ、これ、どうしたのだね?」
見ると、白いひげをはやしたおじいさんが立っています。
「はい。さっきここへおりてきた娘さんに、もう一度あいたいのです」
「あすになったら、またあえよう」
「そのとき、ひきとめることはできませんか?」
「そうじゃなあ・・・」
おじいさんは、しばらく考えていましたが、
「では、クジャクが羽衣をぬいだとき、その中の一枚をこっそりかくしておきなさい」
と、教えてくれました。
次の日の朝、東の空がキラリと光って、きれいなクジャクたちがとんできました。
クジャクたちは羽衣をぬぐと、そばの木の枝にそれをかけて、湖にはいっていきました。
そのすきに狩人はそっと近よって、一番下の娘の羽衣をかくしてしまいました。
やがて娘たちが、湖からあがってきました。
みんなは羽衣をつけましたが、一番下の娘の羽衣だけありません。
娘は、しくしくなきだしました。
狩人は木のかげからこれを見て、かわいそうになりました。
そして思わず、大きな声をだして、
「ここにあります!」
と、さけびました。
その声におどろいて、ほかの娘たちはクジャクになって、とび立っていきました。
のこされた娘は、狩人にたのみました。
「その羽衣をかえしてください。それがないと、クジャク山へ帰ることができません」
すると狩人は、思いきっていいました。
「娘さん。わたしのお嫁さんになってください。そうすれば、この羽衣をかえしてあげます」
娘は、狩人をながめました。
見れば、りっぱな若者です。
そこで、お嫁さんになることを承知(しょうち)したのです。
娘はクジャク山の王さまの、七番目の王女で、クジャク姫という名まえでした。
狩人の家では、年とったおじいさんが喜んで二人をむかえました。
狩人が、美しいクジャク姫をお嫁さんにしたといううわさは、まもなく王さまの耳にもつたわりました。
王さまはなんとかして、クジャク姫を自分のものにしたいと思いました。
王さまには、悪ぢえのはたらくうらない師がついていました。
うらない師はいいました。
「いくさをおはじめなさいまし。あの狩人を兵隊にだして、敵と戦わせるのです。そのあいだに、クジャク姫をうばいとればよろしいでしょう」
「おお、それがいい」
王さまはさっそく、となりの国にいくさをしかけました。
そして狩人を、兵隊としてまっさきによびだしました。
狩人は、おじいさんやクジャク姫にわかれをつげて、シプソンパンナの国ざかいヘ出発しました。
それから王さまは、国の人びとを広場に集めました。
「いま、わが国はとなりの国にせめられている。戦いに勝つか負けるか、ひとつ、うらない師にうらなってもらおう」
と、いって、王さまはうらない師をよびました。
うらない師は呪文(じゅもん)をとなえていましたが、やがて頭をあげて、
「王さま、たいへんでございます。この国には魔女(まじょ)がおります。その魔女をころさないと、こんどのいくさには負けてしまいます」
と、いいました。
王さまはおどろいたふりをして、たずねました。
「魔女だと。いったい、どこにいるのだ?」
「ほれ、その人ごみの中におります。狩人の妻がそうです。魔女がばけているのです」
と、うらない師は、クジャク姫を指さしていいました。
たちまち王さまのけらいが、クジャク姫をつかまえようとしました。
姫はなきながらいいました。
「わたくしは、魔女ではありません。どうして、こんなひどいことをなさるのですか!」
けれども王さまは、聞きません。
「おまえは魔女だ。これからろうやにとじこめる。いくさに負けそうになったら、おまえの命をもらうぞ」
と、いいました。
けらいが姫をしばろうとしたとき、姫がたのみました。
「おねがいです。生きているうちに一度だけ、羽衣をつけて舞わせてください」
王さまは、そのねがいをゆるしました。
おじいさんが家にかけていって、羽衣を持ってきました。
クジャク姫はそれをきると、しずかに舞いはじめました。
どこからともなく、かおりのよい風がふいてきました。
きよらかなしらべが、風に乗って流れてきます。
人びとはクジャク姫の美しい舞いすがたに、ウットリと見とれていました。
なわを持ったけらいも、いつのまにかなわをはなしました。
わるい心の人も、きよらかな心になっていきました。
姫は舞いながら、しだいに高く高くあがっていきました。
いつのまにか、姫はクジャクのすがたにかわっていました。
人びとが気がついたときには、クジャク姫は、空のずっとむこうにとびさっていました。
クジャク姫は、狩人にはじめてあった湖のほとりに舞いおりました。
そこへ、白いひげをはやしたおじいさんがあらわれました。
姫は、おじいさんに自分の金の腕輪をわたして、
「あの方がここへきましたら、これをわたしてください」
と、たのみました。
そして、なきながらクジャク山へとんでいきました。
狩人は、いくさに勝って帰ってきました。
ところが家に帰ってみると、クジャク姫がいません。
おじいさんはなみだをふきながら、わけをはなしました。
それを聞くと、狩人はすぐさま姫のあとを追いました。
姫にあった湖のほとりにきてみると、白いひげのおじいさんがまっていました。
「姫の国へいくのはあきらめなさい。人間の力では、いけないのだから。これを姫だと思って、持って帰りなさい」
こういっておじいさんは、金の腕輪をくれました。
けれども狩人は、どうしてもあきらめることができません。
「どんなめにあってもかまいません。わたしは姫にあいたいのです。そしてもう一度、つれてきたいのです」
「そうか、それほどいうのなら、これをわたそう」
おじいさんは狩人に、魔法の弓と矢をくれました。
「とちゅうに、三つのきけんなところがある。この弓と矢で乗りこえていきなさい」
狩人は、ドンドン、ドンドン歩いていきました。
もう、どのくらい歩いたかわかりません。
ふいに、ガラガラという音がして、目の前の山から、大きな岩がくずれ落ちてきました。
狩人は、おじいさんからもらった弓に矢をつがえました。
そして落ちてくる岩をめがけて、ピューッ! と、矢をはなちました。
矢は岩につきささって、岩が落ちてくるのがとまりました。
こんどは、大きな川がありました。
おどろいたことに、川はグラグラと、にえたっているのです。
これでは、泳いでわたることもできません。
狩人は、おじいさんのことばを思いだしました。
(この矢を、射てみよう)
狩人は目をつぶって、ピューッと、川の中に矢をはなちました。
すると、壁のような大波がわきおこったかと思うと、まっ赤なリュウがおどりでてきたのです。
「くるしい! 矢をぬいてくれ! おまえのいうことは、なんでも聞くから!」
「じゃあ、むこう岸までわたしてくれ」
リュウがうなづいたので、狩人はリュウのからだから矢をぬきとってやりました。
まっ赤なリュウは、しっぽをこちらの岸につけ、頭をむこう岸につけました。
これで、橋ができました。
狩人が、その橋をわたってしばらくすすむと、ひろいさばくにでました。
そのさばくに、一歩足をふみいれたとたん、
「あっ!」
と、いって、とびあがりました。
さばくの砂が焼けついて、チロチロとほのおまであげているのです。
これでは、空でもとんでいくほかはありません。
そこで狩人は目をつぶって、空にむかって矢をはなちました。
「ガア! ガア!」
空から、バタバタと大きな鳥が二羽おりてきました。
二羽のうちの一羽のつばさに、さっきはなった矢がつきささっています。
「狩人さん。このつばさの矢をぬいてください」
「わたしたちはクジャク山へいくところです。妻を、たすけてやってください」
この二羽は、オオトリの夫婦でした。
「それでは、わたしを乗せていってくれ」
「ええ、いいですとも。あなたを一人乗せるぐらい、なんでもありませんから」
狩人が矢をぬいてやると、オオトリは狩人を乗せてくれました。
それから空高く舞いあがって、とうとうクジャク山につきました。
いずみのほとりで、一人の娘が水をくんでいました。
「クジャク姫を、知りませんか?」
と、狩人が聞きました。
「あら、このお水をクジャク姫さまのところヘ、くんでいくところですのよ」
と、娘がこたえました。
(それはちょうどいい)
狩人は、腕輪をこっそり、その水おけの中にいれました。
娘はなにも知らずに、水をくんで帰っていきました。
クジャク姫がふと、水おけの中を見ると、自分の腕輪が光っています。
「あの方が、きてくださったのだわ!」
姫がむちゅうでかけだすと、いずみのほとりに狩人が立っていました。
二人はしっかりとだきあって、再会を心から喜びました。
それから狩人は姫をつれて帰って、あの湖のほとりで、おじいさんと三人でなかよくくらしました。
おしまい
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