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10月19日の世界の昔話

わらった王女

わらった王女
ロシアの昔話 → 国情報

 むかしむかし、ある国の宮殿(きゅうでん)に、うつくしい王女がすんでいました。
 けれどこの王女は、生まれてから一度もわらったことがありません。
「かわいそうに。王女はいつもつまらなそうな顔をしている。なんとかしてわらわせてやりたいものじゃ」
 王さまは、王女のことが心配でたまりません。
 そこで、こんなおふれをだしました。
《王女をわらわせたものに、王女をお嫁にあげよう》
 おふれを知って、おおぜいの人たちが宮殿にあつまってきました。
 みんなはなんとかして王女をわらわせようと、おもしろい歌をうたったり、おかしなおどりをおどったりしました。
 けれど王女は、すこしもわらいませんでした。
 さて、あるやしきに、たいへんしょうじきで、はたらきものの下男(げなん)がいました。
 下男がやしきではたらきはじめてから、一年たったある日のこと。
 やしきの主人が、金貨のいっぱいはいったふくろを机の上において、
「一年のあいだ、ほんとうによくはたらいてくれたね。さあ、おまえのほしいだけ金貨をおとり」
と、いって、へやを出ていきました。
 しょうじきな下男は、金貨をたった一枚だけとりました。
 ところが井戸へ水をのみにいったとき、下男は、その金貨を井戸の中におとしてしまったのです。
「ああ、これはぼくのはたらきがたりないので、バチがあたったのかもしれない」
 下男はそう考えて、まえよりもいっそうしごとにはげみました。
 やがて、また一年がすぎました。
 主人はまた、
「一年のあいだ、ほんとうによくはたらいてくれたね。さあ、おまえのほしいだけ金貨をおとり」
と、いって、へやを出ていきました。
 下男は、金貨を一枚だけとりました。
 ところが、井戸へ水をのみにいったとき、下男はまた、金貨を水の中におとしてしまいました。
「ぼくのはたらきがたりないので、神さまがバツとして、金貨をおとりあげになったのだろう」
 下男はそう考えて、また、せっせとはたらきました。
「ほんとうに、うちの下男ははたらきものだ。おかげで、いつもおいしいごちそうがたべられるし、きれいな家にすむことができる」
と、主人はよろこびました。
 また、一年がすぎました。
 主人は机の上に金貨を山のようにつみあげて、いいました。
「一年のあいだ、ほんとうによくはたらいてくれてありがとう。さあ、おまえのほしいだけ金貨をおとり。なん枚でもいいんだよ」
 下男はやっぱり、一枚しか金貨をとりませんでした。
 そして、井戸へ水をのみにいきました。
 すると、どうでしょう。
 金貨が二枚、水にういているのです。
「これはきっと、ぼくがいっしょうけんめいはたらいたごほうびに、神さまがくださったのにちがいない」
 下男はよろこんで、金貨をひろいました。
 お金ができたら、下男はぜひ、世界じゅうを旅行してみたいと思っていました。
 そこで主人にひまをもらうと、元気よく出発しました。
 野原にさしかかったとき、一匹のネズミがやってきて、下男にたのみました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっとおんがえしをしますから」
「ああ、いいよ」
 下男は気前よく、一枚の金貨をネズミにやりました。
 森をあるいていくと、こんどはカブトムシがあらわれていいました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっとおんがえしをしますから」
「ああ、いいよ」
 下男は金貨を一枚だして、カブトムシにやりました。
 川をわたっていくと、ナマズがいました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっとおんがえしをしますから」
「ああ、いいよ」
 やさしい下男は、さいごの金貨をナマズにやってしまいました。
 これで下男は、一文なしです。
 けれど下男は、そんなことにおかまいなく、テクテクあるいて旅をつづけました。
 やがて、下男は町につきました。
 なんてにぎやかなのでしょう。
 道の両がわに店がならんでいて、おおぜいの人がたのしそうにあるいています。
 はじめて町へやってきた下男は、めずらしくてたまりません。
 あたりをキョロキョロ見まわしていると、下男の目のまえに、キラキラとかがやく宮殿がたっています。
 そしてあの、一度もわらったことのない王女が、まどから下男のほうを見ているではありませんか。
「あっ、あれは王女さまにちがいない。王女さまが、ぼくのことを見ている」
 下男はビックリして、気をうしなってしまいました。
 するとどこからともなく、下男のまわりにナマズとカブトムシとネズミが、つぎつぎにすがたをあらわしました。
 王女はまどから身をのりだすようにして、ジッとみつめました。
 まず、ネズミが四本の足だけではたりなくて、しっぽもつかって、下男の服についたドロをはたきおとしました。
 カブトムシは、ツノで長グツをきれいにみがきました。
 さいごにナマズがひげで、下男の鼻の下をくすぐりました。
 下男はビックリして、とびおきました。
「オホホホホホ、まあ、なんておもしろいんでしょう」
 うつくしいわらい声が、あたりにひびきました。
 そうです。
 王女が、はじめてわらったのです。
「ネズミたちったら、ゆかいなのね。それに、あの男のおどろいた顔。オホホホホ」
 王さまは、大よろこびです。
「王女がわらったぞ! 生まれてはじめてわらったぞ! 王女をわらわせたのはだれじゃ?」
 すると、おおぜいの人たちが、うそをいってなのりをあげました。
「わたしです」
「いいえ、ぼくです」
「わたくしです」
 ところが、王女は、
「みんなちがいます。あたしをわらわせたのは、あの人よ。それと、ネズミと、カブトムシと、ナマズよ」
 そういって、下男のほうをゆびさしました。
 下男は宮殿にまねかれて、王さまにもらった服をきると、それはりっぱな若者になりました。
 そしておふれのとおり、王女と結婚して、ネズミと、カブトムシと、ナマズと、みんななかよくくらしました。

おしまい

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