11月6日の世界の昔話
田植え名人
中国の昔話 → 中国の情報
むかしむかし、中国に、田植えの名人と呼ばれる人がいました。
この名人にかかれば、どんなに広い田んぼでも、あっという間に苗を植えてしまうし、しかも、まるで線を引いたようにまっすぐなのです。
ある年の事、村の役所に新しい役人が来ました。
村では新しい役人が来るたびに、役人に贈り物をしてごきげんをとります。
そうしないと、役人がひどい事をするのです。
ところが、この年は日照り続きで、自分たちの食べる物さえなかったので、役人に贈り物をする者は一人もいませんでした。
すると役人は、すっかり腹を立てて、
「けしからん。礼儀知らずの村人たちめ、思い知らせてやるぞ!」
と、村人たちをいじめる方法を考えているところへ、田植え名人のうわさが耳に入ったのです。
「だれか、田植え名人を呼んでこい」
役人の命令で、田植え名人は、すぐに役所へ連れてこられました。
役人は田植え名人を自分の前にひざまずかせると、机を叩いてどなりました。
「お前か、田植え名人というけしからん男は! そもそも名人とは、お上が決めるものだ。それを勝手に名人を名乗るとは、とんでもないやつだ!」
ところが田植え名人は、少しもあわてず、すました顔で答えました。
「田植え名人とは、だれの事です? わたしは、自分で名人だなんて言った覚えはありませんよ」
それを聞いて、役人はいよいよ腹を立てました。
「なに! わしに口答えをする気か!」
そのとき、白いひげのおじいさんが、役人の前に進み出て言いました。
「お役人さま。この男が本当に田植えの名人かどうか、試されてはいかがですか? もし、本当にうわさ通りの名人だったら、お役人さまがあらためて名人の位をあげてください」
「ほほーう、なるほど。それは面白いな。もし名人でないときは、この男と一緒に、お前の首もはねてやろう。ところで、この男にはどんな技があるのだ?」
「はい、苗を一株で八本ずつ、縦横が真っ直ぐ、碁盤の目の様に植える事が出来ます。それも、お役人さまが田んぼを一周する間にです」
「よし、わかった。お前の言う通りなら、まことの名人だ。それにふさわしい記念碑を立ててやろう」
役人はニヤリと笑うと、
(田んぼを一周する間に、田植えが終わるわけないだろう。ここでおれが奴らの首をはねて、きびしい役人だとわからしてやれば、村人たちはおれに多くの贈り物をすることだろう)
と、考え、田植え名人を大きな田んぼに連れて行きました。
「よし、それでは、初め!」
合図ともに、役人は田んぼのあぜ道を全速力で走りました。
そして三つ目の角を曲がったとき、周りの村人たちから、
「わっー!」
と、言う声がわきおこりました。
お役人がはっとして、足をとめるとどうでしょう。
広い田んぼ一面に、イネの苗が線を引いたように植えられていたのです。
「そんな馬鹿な、いつの間に」
役人は、あわてて田んぼに飛び込むと、一株ずつ数をかぞえました。
するとどの株も、見事に八本ずつ植えてあります。
さすがの役人も、これには文句のつけようがありません。
「まあ、まあまあだな」
役人は逃げるようにして役所に戻ると、田んぼの横に田植え名人の記念碑を立てさせました。
でも、よっほどくやしかったらしく、記念碑には名人の名前も立てた年月日も入れませんでしたが、村人たちはこの記念碑を見るたびに、意地悪な役人をやっつけた名人の事をほめたたえたということです。
おしまい
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