12月9日の世界の昔話
アルキメデスの新兵器
むかしむかし、アルキメデスという名前の天才数学者がいました。
彼の発見した法則や原理は、今の科学でも欠かすことの出来ない物となっています。
このお話しは、その天才数学者、アルキメデスのお話です。
アルキメデスが生きていた時代、一番の大国はローマでした。
そのローマ軍が『ローマの剣』と呼ばれる、もっとも優れたマルケルス将軍に命令して、アルキメデスの住むシラクサを占領しようとしたのです。
七万六千人を超える大軍のローマ軍にとって、ちっぽけなシラクサの城など、一気に攻め落とせると思っていました。
でも、そう簡単にはいきません。
シラクサ王ヒエロン二世が、アルキメデスを軍事技術長に任命したのですから。
(まあ、さすがにローマ軍に勝つ事は出来ないだろうが、わたしの力を持ってすれば、負ける日をのばす事は出来るだろう)
アルキメデスは正直言って、この戦争に乗り気ではありませんでした。
しかし、自分の考えた技術を国の予算で実現出来る事に、科学者として魅力を感じていたのです。
「まずは小手調べに、簡単な物から行くか」
アルキメデスは城の城壁に小さな穴を開けると、そこから弓矢を射ることを命じました。
「この小さな穴からは広い範囲を攻撃出来るが、反対にこの小さな穴をねらう事は至難の業だろう」
これは、日本でも使われた簡単な方法ですが、効果は抜群です。
城壁の小さな穴から飛んでくる矢に、多くのローマ兵士たちはバタバタと倒れ、
「敵には、あのアルキメデスがいる。これはあやつの新兵器だ。いったん退却!」
と、ローマ軍は一時退却をしました。
退却したローマ軍に、アルキメデスは満足げに言いました。
「よしよし、次はもっと大がかりな物で行こう」
やがて体制を整えたローマ軍は、弓を防ぐ大きな盾を一列に並べて、ゆっくりと城へ攻めてきました。
これでは、いくら弓矢を放っても効果がありません。
ローマ兵士が安心して進んでいると、今度は何と、大きな岩の固まりが城からビュンビュンと飛んできたのです。
いくら大きな盾でも、この岩を防ぐ事は出来ません。
この岩によって、またまた多くのローマ兵士が倒れました。
実はこの岩はアルキメデスが作らせた投石機が放った物で、滑車とテコの原理を利用して、五百キロの大岩を投げる事が出来たそうです。
二度にわたる矢と石の攻撃に、ローマ兵士たちの間で、
「アルキメデスは人ではなく、神の化身だ。このままでは、ローマ軍は全滅してしまうぞ」
との、うわさが広まりました。
実はこのうわさ、アルキメデスがスパイを使って、ローマ軍に広めたのだと言われています。
このうわさは弓矢や投石機以上に効果があり、ローマ兵士はいくら将軍が命令しても、なかなか攻め込もうとはしませんでした。
こうしてローマの陸軍には勝利したのですが、ローマには無敵を誇る大艦隊がいます。
「そろそろ、ローマの大艦隊が登場する頃か。では、あの手でいくか」
アルキメデスは大きな鏡を何枚も用意させると、それを城壁に並べました。
そして近づいてくる敵艦を見つけると、アルキメデスは鏡を持つ兵士たちに命じました。
「よし、あの先頭の船に鏡の光を向けよ。狙いは、船首の黒く塗られた部分だ!」
すると鏡の光に当たった敵艦の一隻が、パッと火を噴いて燃え上がったのです。
これには、敵も味方もびっくりです。
「アルキメデスよ、これは一体、どういう魔法だ?」
たずねる王に、アルキメデスは答えました。
「鏡の光を、一点に集めただけです。光というものは明るいだけでなく、熱も持っています。この光を鏡を使って集めれば、船を燃やすぐらい簡単です。ちなみに、黒い色は白い色よりも光を吸収するので、先ほどのように黒い部分を狙えば、より効果的です」
それを聞いた王は、今さらながらにアルキメデスの知識に舌を巻きました。
さて、一方のローマ軍ですが、ローマ軍の中にも科学の知識がある者がいたのか、太陽の光がある間は攻めようとはせず、しばらくして雲が太陽を隠すと、また攻め込んできたのです。
「ほう、ローマにも、頭の切れる奴がいるな」
アルキメデスは少し感心したようですが、その顔はまだまだ余裕です。
「では、次の兵器を用意しろ」
アルキメデスの命令に、城壁から大きなクレーンのような物が出てきました。
そのクレーンはスルスルと腕を伸ばすと、先に付いたかぎ爪でローマ軍の船を引っかけ、船を勢いよく持ち上げると、船を海の底に沈めてしまったのです。
これには、さすがのローマ大艦隊も、あわてて退散しました。
その後、アルキメデスは神の化身だといううわさはますます広まって、ついにはアルキメデスがただの棒きれを城壁から突き出すだけで、ローマ軍は新兵器だと勘違いして逃げていったそうです。
おしまい
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