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第 21話
粉屋の息子とロバ
イソップ童話 → 福娘童話集のイソップ童話
ある粉屋とその息子が、ロバを売りに町へ出かけて行きました。
ロバを引いて、二人で歩いていると、
「見ろよ、せっかくロバを連れているのに、あの親子ったら歩いているぜ」
と、道で遊んでいた若者が大声で言いました。
仲間の若者たちも、それを見て笑っています。
「あははは。本当だ。俺たちだったら、ロバに乗って行くけどなあ」
それを聞いて粉屋は、
「なるほど。それはそうだ」
と、さっそく息子をロバに乗せて、歩き出しました。
すると、それを見つけたおじいさんたちが、口々に言いました。
「あれをごらん。まったく近頃の子どもときたら、おやじを歩かせて自分だけ楽をしている」
「本当に。まったく情けないったらありゃしない」
そう言われると、粉屋も何だか腹が立ってきて、息子に怒りました。
「そうだそうだ。お前は子どもなんだから降りろ。ロバには、父さんが乗って行く」
粉屋がロバに乗り、その後を息子が歩いて行くと、今度は、
「まあ、かわいそうに。あの子を見てよ」
野原で赤ちゃんを抱っこする奥さんたちが、ヒソヒソ話しています。
「ひどい親もいるものねえ。あんな小さな子を歩かせて平気だなんて」
「そうね。親だったら、一緒に乗せてやるのが普通よね」
それを聞いた粉屋は、あわてて息子もロバに乗せました。
「まったくだ。父さんが悪かったね」
ロバは粉屋と息子を乗せて、ゆっくりゆっくり町に向かっていきました。
そろそろ町が見えてきたころ、本を抱えている男の人に会いました。
男の人は首を傾げながら、粉屋と息子に近寄ってたずねました。
「このロバは、何か悪いことをしたのですか?」
「えっ? いいや」
と、粉屋が首を振ると、男の人は目を丸くしました。
「なんて事を! 何も悪い事をしていないのに、あなた方はこのやせたロバに乗って来たのですか? 私はこのロバがひどい悪さをしたので、おしおきをしているのかと思いました。あなた方には、ロバの苦しみがわからないのですか? ヨロヨロしているではありませんか。・・・おおロバよ、私ならお前を担いで行くだろうに」
男の人があまりに悲しそうな顔をするので、粉屋は何だか、とてもひどい事をしたような気持ちになりました。
「うん、そうだ。わしのロバは、いいロバなんだ」
そこで粉屋はロバを逆さにして、足を二本ずつしばり、間に棒を渡して息子とかついで行く事にしました。
さて、町に着いて橋を渡ろうとしたときです。
「あれはなんだ? 何をしているんだ?!」
と、誰かが叫びました。
その声を聞いてたくさんの人々か集まり、わいわい言い始めました。
「ロバをあんな風にして、連れて来るなんて」
「まったく、変な親子だなあ」
すると逆さにされたうえに、いきなりガヤガヤしてきたのでロバはビックリです。
大暴れに暴れたので橋から川に落ちてしまい、逆さに縛られたまま死んでしまいました。
「ああ、わしがおろかだった。誰からも気に入られようと、みんなの意見を聞いた為に、大事な売り物のロバをなくしてしまったよ」
粉屋は、オイオイ声をあげて泣きました。
人間は、人の目を気にする生き物ですが、あまり人の目ばかり気にしていたら、こんな目にあいますよ。
おしまい
粉屋と彼の息子が、隣町の市でロバを売るためにロバをひいていました。
井戸端会議をしている女達は、それを見て笑いました。
「あの人たちときたらロバに乗らずに、とぼとぼと歩いているよ」
粉屋はこれを聞くと、すぐに息子をロバに乗せました。
しばらく行くと、道ばたで熱心に議論をしている老人達に出会いました。
老人の一人が、ロバに乗った息子を見て嫌な顔をしました。
「見て見ろ、最近の若者は年寄りに敬意を払わない。年老いた父親が歩いているのに、怠け者の息子はロバに乗っておる」
それを聞いた粉屋は息子をロバから下ろすと、今度は自分がロバにまたがりました。
しばらく行くと、彼らは母親と子供たちの一団に出会いました。
母親の一人が、ロバに乗った父親を見て嫌な顔をしました。
「可哀想に。小さな息子を歩かせて、自分はロバに乗って楽をしているよ」
それを聞いた粉屋は、息子を自分の後ろに乗せました。
しばらく行くと、町の入り口の橋を修理している大工達に出会いました。
大工の一人が、ロバに乗った親子を見て嫌な顔をしました。
「ロバが可愛そうだ。二人に乗られて、その重みで足が震えているではないか」
それを聞いた粉屋と息子はロバから降りると、大工に余っている棒をもらいました。
そしてロバの脚をロープで束ねると、棒を使って親子はロバを肩にかつぎました。
(これなら、誰にも文句は言えないだろう)
粉屋と息子が橋を渡ろうとしたその時、棒につるされるのを嫌がったロバが暴れて、ロバと粉屋と息子は川に落ちてしまいました。
粉屋と息子は何とか川からはい出ましたが、ロバを失い、がっかりしながら家に帰っていきました。
自分の意志を通さず、人の顔色をうかがってばかりいる人に聞かせるお話です。
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