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第 22話
道化と田舎者の物真似
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投稿者 : 神栖星花研究所 「神栖星花研究所」
ある時、金持ちの貴族が劇場を開き、無料で人々を招待しました。
そして素晴らしい出し物をした者には、多大な報酬をつかわすとのおふれを出しました。
報酬を得ようと、腕に覚えのある者が大勢競い合いました。
そこへ、大変面白いと評判の道化がやって来て、新しい出し物を披露すると言うのです。
この話は世間で持ちきりとなり、大勢の人々が劇場へ詰めかけました。
すると道化は観衆が見守る中、着ているマントの中に顔を突っ込んで、子ブタの鳴き真似をしたのです。
それがあまりにもうまかったので、人々はマントの下に子ブタが隠れているのだと思いました。
そしてマントを脱ぐようにと要求する人々に、道化は言われるままにマントを脱ぎました。
しかし何も出てはこなかったので、人々は道化に喝采を浴びせました。
さて、それを見ていたある田舎者が、こんな事を言いました。
「ははーん。おれは田舎でブタを飼っているから知っているが、あの鳴き真似は二流だな。とても、わしの鳴き真似にはかなわんよ」
そして田舎者は、明日、もっと上手なブタの鳴き真似を披露すると公言したのです。
次の日、劇場には更に大勢の観衆が詰めかけました。
しかし大多数の者は、田舎者の芸を見に来たというよりも、田舎者の無様な芸を見て、笑い者にしてやろうと思ってやって来たのです。
まず最初に、昨日の道化が「ブウー、ブウー」と鳴いて、そして「キー、キー」と叫び、昨日と同じように観衆の称賛とあびました。
次は、田舎者の番です。
彼はさっそく、子ブタの鳴き真似をしました。
すると人々は、
「下手くそ、さっきの道化の方が、はるかに上手な物真似だったぞ」
と、叫んで、田舎者を劇場から叩き出そうとしました。
するとその時、田舎者はマントをぱっと脱ぎ去りました。
なんとそこには、本物の子ブタがいたのです。
田舎者は子ブタの鳴き真似ではなく、本当の子ブタの鳴き声を聞かせていたのでした。
あぜんとする観衆に、田舎者は言いました。
「これであんたたちが、どれほど立派な審査員だったか。よくわかっただろう」
人間とは、うわさや前評判に左右されやすい生き物です。
いくら評判がよくても、それが真実であるとはかぎりません。
おしまい
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